ストレンジラヴ

特別な一日のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

特別な一日(1977年製作の映画)
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「"特別な一日"だった。生涯忘れない。確かに目にしたのだ。20年経ったら自分の子供達に言うといい。"あの日そこにいた"と」

15年前、WOWOWで放送していた本作をたまたま途中から目にして以来、ずっと気になっていたものの後回しになっていた。某音声アプリで本作をとりあげていただき、たまたまDVDがAmazonで安く売っていたのでこれを機に全編通して観直すことにした。

第二次世界大戦の足音が近付く1938年のローマ。この永遠の都に渦中の男アドルフ・ヒトラーがファシスト党党首べニート・ムッソリーニを訪問したことから物語は始まる。
ヒトラーを歓迎しようとローマ市民が大挙し、すっかり人気のなくなった市内の集合住宅で、留守番の主婦アントニエッタ(演:ソフィア・ローレン)とワケアリの男ガブリエーレ(演:マルチェロ・マストロヤンニ)は出会ってしまう…という一日限定の"昼顔"である。歓迎パレードの実況がラジオから流れる中、がらんとした集合住宅を舞台に取り留めのない時間が過ぎていく。
いや待てよ待てよ待てよ、やつれて疲れ切ったソフィア・ローレンってこんなにも神々しいの?誰だか忘れたが、かつて彼女にメイクを施した日本人メイクアップ・アーティストが「ソフィアはお世辞にも美人とは言えない。顔の各パーツの主張があまりにも強すぎるから、メイクで角を取る必要があった」とインタビュー記事で証言していた記憶があったので、ここまで彼女に魅了されるとは夢にも思わなかった。どの作品よりも美しく、そして惹きつける。ヴィヴィアン・リーもオードリー・ヘップバーンも、少しやつれて目元に窪みがあるくらいが最も魅力を感じる僕だから、これはあくまでも"平たい顔族"の僕が単に彫りの深い顔に憧れているだけなのかもしれないが…。
そして本作を唯一無二たらしめているのが"人気の消えた集合住宅"そのものである。中庭といい屋上の洗濯場といい螺旋階段といい、この特異な状況で本当にいい仕事をしている。
数少ない不満はマストロヤンニ、というか彼の役柄。ガブリエーレはある秘密を抱えているのだが、さすがに設定に無理があるような気がした。もし設定通りならば、アントニエッタ相手にあの手つきはないでしょうよ?
圧倒的に面白いわけでも、何かセンセーショナルなわけでもない。でも忘れられない。そんな味噌汁みたいな作品で、ラストシーンのカット割りは一度目にしたらそれこそ「生涯忘れない」だろう。ここまで書いて僕はペンを置き、そして枕元の灯りを静かに消すのだった。