アニマル泉

糧なき土地のアニマル泉のレビュー・感想・評価

糧なき土地(1932年製作の映画)
4.5
ブニュエルの第3作。「黄金時代」が上映禁止となり八方塞がりだったところ、友人が宝くじに当たり本作が実現したという、いかにもブニュエルっぽい制作秘話を持つ。スペインの知られざる奥地コルデスを描くドキュメンタリーだ。主人公はなく、全編ナレーションによる客観ドキュメンタリーの体をなしている。というのは本作は「やらせ」の擬似ドキュメンタリーだからだ。
全編にショッキングな風習や過酷な生活が散りばめられている。鶏の首を切り取る祭、豚と子供が共存して飲む川、川は生活排水でもある、学校の子供達は養育費補助目当てで集められた孤児ばかり、異様に多い甲状腺異常の女性と路上死する少女、村内の近親相姦で生まれた障害児たち、幼児の死体と川での移送、マラリア、廃墟、蛇などだ。なかでも有名なのが崖から落下する山羊の場面で「時々山羊が急斜面から落下する事故が起きる」というナレーションが被るが、実際は山羊を銃殺して落下させたショットである。また養蜂箱を運ぶ驢馬から箱が落ちて、大量の蜜蜂に襲われて驢馬が死ぬ場面、ここも驢馬に蜜を塗りたくって撮影したという。「ヤラセ」のショットだ。ブニュエルは「作品のためには必要不可欠だった」と証言しているが、大問題をはらんでいる。事実の捏造、動物虐待、など制作姿勢は厳しく問われるだろう。しかしここでは制作の倫理やコンプライアンスの問題よりはブニュエル特有の主題を考えたい。「暴力」の主題である。処女作「アンダルシアの犬」のトップカットから眼球を剃刀で切り裂く戦慄なデビューを果たしたブニュエルは、本作でも鶏の首を掻き、山羊を撃ち落とし、驢馬を蜜蜂に襲撃させる。「暴力」はブニュエルの奥底にある情動ではないか?彼が好む「死体」「身体の断片化=不具」「フェテシィズム」は「暴力」を源泉に湧き出てくるのではないか?ブニュエルは危険なシネアストだ。
本作ではブニュエルが偏愛する「足」は、教室の子供たちのブラブラする足の移動撮影、山を登る素足、などにとどまっている。
反フランコを掲げた字幕アジテーションで終わる。
白黒スタンダード。
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