1930年代前半の世界恐慌の時代に銀行強盗や殺人を繰り返した実在のカップルであるボニーとクライドを描いた、アーサー・ペン監督の伝記的な犯罪映画。ギャング映画という戦前の古いハリウッドを思い起こさせる脚本だったためワーナー・ブラザースは低予算での制作しか認めなかったが思いがけない大ヒットとなり、現在ではアメリカン・ニューシネマ(New Hollywood)の先駆的かつ代表的な作品と見なされている。
明確な動機もなく銀行強盗を重ね、意図せずに殺人まで犯してしまった男女が、頭のゆるい若者や兄夫婦を巻き込みながら逃亡生活を送るというストーリーは、ボニーとクライドが実在する人物だということもあって、それほど興味深いものではなかった。短いショットのつなぎ合わせ、印象的なラストシーンでのスローモーションの活用、ゲイやオーラルセックスなどの性的表現の開放性など、当時はとても新しい映像だっただろうが、現在ではそこら辺も当たり前なので、大きな印象を与えるわけではない。まあ、ハリウッドの歴史の中でエポックメイキングな作品として押さえておくという位置づけで見るのがよいのかもしれない。
それよりも、本作が出世作となるフェイ・ダナウェイを堪能すべきだろう。個人的にはそれほど印象に残っていない女優さんだが、本作の魅力的な彼女には魅惑されてしまった。ラストシーンの演技もよし。一方、クライドの兄嫁を演じたエステル・パーソンズは本作でアカデミー助演女優賞を受賞しているが、受賞するほどの演技とは思えない。出番も少ないし。
ところで、脚本家のデヴィッド・ニューマンとロバート・ベントンはアメリカ版のヌーベルヴァーグを意識して本作の脚本を書き上げ、フランソワ・トリュフォーにその脚本を送って監督を依頼している。トリュフォーは『華氏451』の制作を理由に辞退したらしいが、もし仮にトリュフォーが本作を監督していたらどんな作品になって、その結果として本作が映画史の中でどのように位置づけされていたのだろうかと考えてみるのも興味深いかもしれない。