彦次郎

麻雀放浪記の彦次郎のレビュー・感想・評価

麻雀放浪記(1984年製作の映画)
3.9
敗戦後まもない日本を舞台にバイニンたちの凌ぎを描いたギャンブルを題材にしたピカレスクドラマ。
あらすじとしては職もなく上野にいた哲が博打を教えてくれた上州虎と再会連れられた賭場でチンチロリンを通じてドサ健と出会い「ボスと手下と敵しかいない」賭博の世界に足を踏み入れるというお話。
作品の魅力は敗戦後で荒廃したため倫理観とか綺麗ごとのない(女もモノ扱いされている)登場人物たちの生きざまでしょう。金や女を失っても勝負は捨てないわけですが哲、ドサ健、女衒の達、出目徳、上州虎たちは凌ぎを削っても憎しみはないドライさが極まったうえでの爽やかさは本作の特徴だと思います。そのような作品の登場人物を演じた俳優陣は素晴らしく特にヒロポンを打ちながら九蓮宝燈を上がりきった出目徳を演じた高品格は印象(特に終盤)に残ります。現実でも麻雀が強い加賀まりこがオックスクラブのママを演じるのも良いリアリティでした。
原作は「雀聖」阿佐田哲也氏で戦後にアウトロー生活をしているため生み出されたキャラクターが「坊や哲」。この作品から派生して有名なのが『哲也-雀聖と呼ばれた男』でしょう。なお余談ですが有名ではないもののクレイジーギャンブル『麻雀放浪記 凌ぎの哲』は名作です。
監督はイラストレーターの和田誠氏。ジャケットを見ていただければ分かるように極めてシンプルですが特徴をとらえたイラストが印象に残ります(星新一の作品等のイラストも手掛けている)。初監督とのことらしいですが、本作をモノクロで描くセンスが素晴らしいです。これにより敗戦後の日本に入り込んだような感覚になれます(ミニチュアを使っていてもむしろ味わいがある)。また闘牌シーンのカメラ演出やイカサマ技なども淡々としながらも飽きさせないよう作られていたと思いました。個人的には台車で向かってくる「こいつら懲りねえなぁ」的な爽やかなラストが好きです。
なおwikipediaによると当初ドサ健を演じる予定だったのは松田優作だったとのこと。鹿賀丈史のドサ健も非情ながらも高架線にぶら下がりながら恋人のまゆみと話たりどこか可愛さのあるアウトローに仕上がっていてとても良かったですが、松田優作版だったらどうなっていたのかもきになるところです。
彦次郎

彦次郎