evergla00

栄光のランナー 1936ベルリンのevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

【24-karat friendship】

ナチス政権下で開催されたベルリンオリンピック。

ユダヤ人迫害、アーリア人至上主義を掲げる開催国のオリンピックに、国として、選手として、参加すべきか否か。参加すれば、ナチスに同調することになるのか、もし参加してドイツ人に負ければ、ナチスを正当化することになってしまうのか。

アメリカ国内では黒人への差別が当然というsegregationの時代でした。主人公Owensは、貧しい家族を救うためにも、ガールフレンドと結婚するためにも、大学へ進学し、陸上競技に力を入れて貧困から抜け出す機会を得たい黒人青年です。

走っている数秒間だけは、人種という足かせから自由になれる、遅いか速いかだけの差になる… 人種差別により、Owensは走る喜びを人一倍嚙み締めていたようです。

圧倒的な身体能力で、国内ほぼ敵なし、オリンピック出場権を得るのですが…。

オリンピックを明らかに政治利用するナチスに対し、スポーツに政治を持ち込むべきではない、選手にとっては出場することに意味があるという、本来のオリンピックのあるべき姿を訴える委員会メンバーの隠れた活動、Owensの高い能力を見い出し、最高の舞台で開花させたい大学の白人コーチ、黒人選手に非協力的なオリンピックコーチ、オリンピックをボイコットしろと圧力をかける黒人団体、ナチスの鼻を明かして来いと応援するライバル黒人選手…。

国だけでなく人種の威信がかかっているという重圧。手放しでオリンピック出場を喜べないOwensの苦悩が見えてきます。父親からは、自分で決めたら良いんだと言ってもらえるのですが、その父親の終始無表情で強面の雰囲気から、厳しい人種差別と貧困の現状が伝わってきます。

オリンピックの競技結果は周知の事実なので、競技中のハラハラ感は特にありません。むしろあっさりです。それよりも、オリンピック施設は全人種共通で利用できるという、今では当たり前のことに感動したり、ユダヤ系アメリカ人選手の心痛を察したりという場面が描かれます。そしてまた、アメリカに帰国すれば、例えパーティの主賓でも、segregationの現実を突きつけられます。

走り幅跳びの判定に苦しむOwensに、競技中進んで助言するドイツ人選手Carl "Lutz" Langのスポーツマンシップが素晴らしいです。ヒトラーの目前で、ナチスも認める「優秀遺伝子」保持者のLutzが、真っ先に黒人のOwensを称える行為は勇気のいることだったでしょう。
原題RACEは、競走のレースと人種をかけている良いタイトルですが、人種としての競走なのか、選手としての競走なのか…。Lutzのスポーツマンシップ溢れる行動は、オリンピックは選手としてのレースの場なのだと証明しました。

オリンピック後の第二次世界大戦中、LutzがOwensに書いた最後の手紙;
"When the war is over, please go to Germany, find my son and tell him about his father. Tell him about the times when war did not separate us and tell him that things can be different between men in this world."

Owensは、Lutzとの友情を24金と評したようです。彼にとっては金メダルよりも、かけがえの無い友情を獲得出来ました。

確かに、環境の違いや、人種差・個体差による体格の特徴で、競技の向き不向きはあります。各競技のメダル受賞者達を見ていると認めざるを得ません。そこを努力で乗り越え、磨いた技術を武器に、同じ条件で競うことがスポーツの醍醐味の一つでしょう。

どれだけ記録を伸ばせるか、みんなでやってみようよ!… Lutzのようにメダルに拘らず、そんな気持ちでトップアスリート達が集う場が本来のオリンピックなのかも知れません。

涙腺を刺激するシーンは幾度も来ます。
音楽が力強く、また期待以上に成熟度の高い作品でした。
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