MasaichiYaguchi

栄光のランナー 1936ベルリンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.1
間もなくリオデジャネイロオリンピックが開幕し、世界から集ったアスリート達の熱戦が始まる。
1936年ナチス独裁政権下で開催されたベルリンオリンピックで活躍したアメリカ陸上競技選手ジェシー・オーエンスの半生を描いた本作は、オリンピックイヤーに相応しい映画だと思う。
近代オリンピックの父、ピエール・ド・クーベルタン男爵が唱えたオリンピック精神は、「スポーツを通して心身を向上させ、文化、国籍など様々な違いを乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもった、平和でよりよい世界の実現に貢献すること」となっている。
しかし、ベルリンオリンピック出場を目指すオーエンスの前途には、この精神に反するような暗雲が垂れ込めている。
ユダヤ人やロマ人への人種差別政策を進めるファシズムのナチスが主催するオリンピックをボイコットしようとするアメリカ世論、ナチスの人種隔離政策を糾弾していながら、有色人種への差別が根強くあるアメリカ社会、そのような差別とオリンピックでのメダル獲得への重圧がオーエンスを苛む。
そんな彼を支えるのは、彼の才能を伸ばしたコーチのスナイダーや家族の愛、差別や重圧に負けず、真摯に競技に臨む彼にシンパシーを抱いた競技仲間やライバル、そしてオリンピックの記録映画を撮影しているレ二・リーフェンシュタール等の直接的、間接的なアシストやエール。
何分の一秒を争うトラック競技は一発勝負の世界。
この僅かな勝負の時間をオーエンスは「人種など関係ない、この10秒だけは自由だ」と表現し、全ての雑音や雑念を排除し、全身全霊でひた走る。
準備不足や治安の悪さ、ドーピング問題と様々に揺れている今回のオリンピックだが、チャンスを与えられた各国の選手達がそういったことを撥ね除け、悔いのない競技、興奮と感動を呼ぶ熱戦を繰り広げてくれることを期待したい。