小波norisuke

栄光のランナー 1936ベルリンの小波norisukeのレビュー・感想・評価

3.0
オリンピックは国威発揚の場になりやすいと、最近のロシアによる国家ぐるみのドーピングについてのニュースでも言われていた。もちろん誰しも自分と関わりのある国の選手を応援したくなるし、その国がメダルをたくさん獲得してくれたら誇らしい。しかし、スポーツは究極的には個人やチームが競うもので、国家などは二の次でよいと思う。だから選手は国家の威信などは背負わずに、政治的な状況とは無関係に、ただひたすら自らのために競技に臨んで欲しいと思う。しかし、現実は厳しく、華々しいスポーツの祭典はやはり政治的な影響を免れない。実にきな臭い。選手が様々な思惑に巻き込まれてしまうことも多々あるようだ。

この映画が描いているのは、ヒトラーのオリンピックと呼ばれた、1936年のベルリンオリンピックだ。ドイツでは既にヒトラーによる人種差別政策が始まっていた。ヒトラーはこのオリンピックを国威発揚と白人の優位性を示威する好機にしようと目論んでいた。 選手にとっては4年に一度しかない晴れ舞台だが、 そんな大会に参加することを反対する声が上がるのも当然に思う。

当時のアメリカも、まだ公民権運動が盛り上がりをみせる前で、人種差別が根強く残っている。 米国の陸上選手であるジェシー・オーエンスは、金メダル獲得が有力視されながらも、ヒトラーの人種差別政策への抗議を示すために、オリンピックを棄権することを黒人の権利向上のために活動する組織から頼まれる。黒人であるジェシーは、深く思い悩みながらも、大会に挑むことを決断する。権力者たちはそれぞれの利害のために選手たちを翻弄するが、選手たちは純粋に競技で勝負しようとする姿が美しい。

オリンピックと政治という、いつの時代にも通じる普遍的なテーマと、優生思想や人種差別の愚かしさを描いていて、興味深い。しかし、掘り下げ方が浅くて、あまり琴線には触れてこないのが残念だ。

原題のRaceは二つの意味を重ねていて秀逸だが、邦題は「炎のランナー」の二番煎じみたいだ。確かにうまいタイトルつけるのは難しそうだが。
小波norisuke

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