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私の殺した男のtakのレビュー・感想・評価

私の殺した男(1932年製作の映画)
4.0
第一次世界大戦中の独仏戦で、主人公ポールはドイツ兵ウォルターを殺害した。ウォルターは恋人に宛てた手紙に署名して息絶える。その死に顔が忘れられないポールは、悩んだ末にウォルターの家族を訪ねて許しを乞おうと考えた。まだ敵国への憎悪がくすぶるドイツの町。ウォルターの父親はフランス人男性というだけでポールを激しく罵る。しかしウォルターの墓参りをしていたことで、母親と許嫁のエルザがポールを友人だと誤解してしまう。ポールは一家に歓待され、両親もエルザもポールに好意を抱くようになる。しかし町の人々はフランス男性をもてなすウォルターの家族にも冷たい反応を示す。

エルンスト・ルビッチ監督というとコメディのイメージが強いのだが、「私の殺した男」はシリアスな葛藤のドラマ。だがところどころにユーモラスな表現が散りばめられて、ストーリーに引き込んでくれる。例えば、お喋りなメイドから町中に噂が広まる様子。敵国からやって来た青年と付き合うエルザを見るために、次々と店のドアが開かれるのだが、短いカットで見せた後はドアベルの音が続くことでテンポよく示す。そしてクライマックスの人情ドラマも素敵だ。

しかしその背景にあるのは戦争が引き起こす悲劇。映画冒頭で町をパレードする軍隊を、片足を失った松葉杖の男性の股から撮ってみせる。もうこの台詞なしのカットだけで、状況を理解させてしまう。帰還兵のPTSD描写は今でこそ映画によく登場するけれど、1930年代にこの辛さを当事者の目線でテーマにしているのはすごいと思う。また敗戦国ドイツの人々の感情、一人の人間としてポールを認める父親の言葉、父親の考えに握手を求める帰還兵。戦争がもたらす悲しみとかすかな希望。この映画の製作当時のスクリーンのこちら側は、世界恐慌が深刻さを増していく時代。そして再び大戦へと進むのである。
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