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吸血鬼のnowstickのレビュー・感想・評価

吸血鬼(1932年製作の映画)
3.9
日本において「河童」というタイトルの映画があったら、おそらくそれは娯楽映画だろうが、「閻魔大王」というタイトルの映画があったら、東洋思想をベースにした芸術映画の可能性もあるだろう。西洋においても、ゾンビ映画は完全に娯楽作品である事が多いが、吸血鬼や死神が出てくる映画は、思想に基づいた芸術映画である事が多い。
「吸血鬼」というタイトルの映画を、吸血鬼について何の予習もせずに、自分から見に行っといて言うのも何だが、吸血鬼というテーマの裏にある西洋の価値観を知らなかった為、前半部分はあまりストーリーに乗れなかった。

しかし、後半はそんな事も気にならないくらい映像表現が素晴らしかった。
特に主人公が幽体離脱するシーンからは釘付けになってしまった。棺桶からのカメラワークのシーンが最も素晴らしく、音楽がかからない「無音」という演出がされていて、緊張感が高まっていた。サイレント時代は、おそらく全てのシーンにピアニストが即興で曲を当てていたため、本当の意味での無音の演出はこれが最初期の作品だと思う。

また、本作は当初サイレント映画として企画されたらしく、台詞がないシーンが多い。トーキー初期のカメラは重過ぎて、サイレント時代の自由で小回りの効くカメラワークが失われていたが、本作はおそらくサイレント時代のカメラで撮影されたシーンが多く、柔軟なカメラワークとなっている。

よって、映画のテーマ自体はあまり理解できなかったが、映像が完璧だったので、それだけで満足だ。
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