さく

アパートの鍵貸しますのさくのレビュー・感想・評価

アパートの鍵貸します(1960年製作の映画)
5.0
ビリー・ワイルダー監督作品は満点(★×5)ばかりつけすぎて、今時のナウい若者にも分かりやす例えると「モノマネ王座決定の針すなお先生」みたいになってきましたが、良いものは良いのだから仕方がありません。

「ウェルメイドって何? おいしいの?」みたいな人は本作を見るべきです。作品によってはちょっと雑になるときもあるワイルダー先生ですけれど、本作は一切手抜きなしです。

(以降、多少ネタバレします)
まず、誰もが印象に残るラケットのシーンですけど、それだけのシーンだったら凡庸な監督でも「ええの思い付いたわ!」くらいになってもおかしくないと思うんです。ワイルダー監督がいちいち丁寧なのは、それだけで終わらせず、実は伏線になっていて、「別れ」のシーンで孤独を演出する小道具として使ってしまう。

他にも、「約束をすっぽかされる」シーンでは、大量に持ってきたティッシュ1枚だけ風で飛ばされることで、これまた独り身の孤独を表現する。こういう一つ一つのシーンを無駄にせずきちんと価値あるものにする(後の演出に活かす)のが本当にうまい監督で、しかもサラッとやってくれるので嫌味ったらしくもない。これ見よがしに「伏線回収うまいやろ?」みたいにやられると胸焼けしますからね。あげればキリがなくなりそうですが、他にも帽子やサングラスといった小道具を使って主人公のおかれた状況を隠喩的に表したり、これは細かな演出ではなくオチにもつながる例の挿話だったり、ともかく全てが丁寧で、今時のナウい若者にもわかりやすく例えると淡谷のり子でも満点をつけますよ。
さく

さく