ブタブタ

ハプニングのブタブタのレビュー・感想・評価

ハプニング(2008年製作の映画)
3.5
JGバラードの処女長編小説「狂風世界』は徐々に速度を上げていく風が世界中を駆けめぐり地上の建物はどんな堅牢なものでも瓦解を余儀なくされる。
都市は崩壊し、人々は烈風を避けて地下に生活の場を求めるが、風は地表の土砂を巻き上げ、川や海の水分も吹き上げて地上を荒れ地に変えて行く。
そうした絶望的な状況の中で過酷な運命に翻弄される主人公含む人々の群像劇、と言うお話しなのですが、この「風」によって世界の終わりが訪れる、物理的エネルギーなのが『狂風世界』で化学物質(?)なのが『ハプニング』

JGバラードを持ち出したのは、
世界の破滅や危機の原因を解明すべく劇中で語られるのは外的要因よりも、むしろ人間の内的な心や精神の変化といったモノなのがJGバラードの「内宇宙SF」なのですが、で『ハプニング』はそこまで踏み込んではいないと思うのですがパンデミックを引き起こす原因について主人公は原因解明や解決に向けて行動を起こす―最初はそうでも進むにつれ只ひたすら逃げ回るだけになり、世界の危機をバックにした夫婦や家族再生の物語になるのはハリウッド映画的でもありバラードSF的でもありシャマランの作家性、独自な世界を構築しつつある過渡期の作品なのだと思いました(その後低迷期に入るみたいですが...)

2000年代のこの頃『宇宙戦争』『ミスト』『クローバーフィールド』等の50~60年代のSFパニック映画が再び復興の兆しを見せていて『ハプニング』もそんな流れの1作だったのかなとも思いました。

シャマラン監督作品はジャンル的にハリウッド・エンターテインメント映画の部類として扱われているのかも知れませんが『ハプニング』は極めてSF映画としての面が強かったと思いました。

世間やファンの望むドンデン返しやパニック映画、ハリウッド・エンターテインメント映画とはどんどん乖離してしまっているようで、この頃のシャマラン監督の評価が非常に下がって行ったのはそんな所も原因なのかな?とも思いました。

人類が増え過ぎて、自然がそれを調整する為に「赤潮」の様な現象が大気中で植物を介して発生した―と言うのが大まかな原因の様ですが、真剣なのかギャグなのか、よく分からないシーンが多いのもシャマラン作品の特徴らしいのですが、有名な観葉植物に話しかけるマーク・ウォールバーグ

「やあ僕はエリオット・ムーア 愛情を持って話しかけるから優しく応えてくれ トイレを使ったらすぐに出ていくよ かまわないだろ?
........................ビニールだ.........」
は完全に爆笑ポイントですよね?

クライマックスの外界と隔絶された田舎の一軒家に逃げ込んでからは完全に『悪魔のいけにえ』等の所謂「アメリカ片田舎ホラー」でそこの主人であるお婆さんの不気味さと強烈さは『ヴィジット』にも通じます。

オチの唐突さとラストの危機はまだ去っていない的なお約束の取ってつけた感じも、余りストーリーは重要ではなくて「ヘンな映画」としての、これがシャマラン作品なのでしょう。

『ヴィジット』『スプリット』とシャマランの完全復活と『スプリット』まだ未見なので慎重にネタバレ回避してるのですが次回作は何やら『アンブレイカブル』の続編とのニュースも流れて来て、早いとこ『スプリット』見なくちゃならないです。

『アンブレイカブル』は同時期に公開された『X-MEN』よりもそのテーマ性やアンチヒーロー映画としての『X-MEN』に見えたので、シャマランが遂にマーベルでもDCでもない第3の(?)アメコミ、ヒーロー映画を撮るのでは、と期待してるのですが。
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