くもすけ

旅立ちの時のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

旅立ちの時(1988年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

リバー演じるダニーの両親にはモデルがいて、ウェザーマン(weather underground)という極左テロ集団がそれ。党活動の分派としてミシガン大で発足し、70年代に活躍した。国会議事堂、刑務所、マスコミ、大企業など体制側とみなした組織を片っ端から標的にして爆弾闘争をしかけていた。団体の名前はディランの歌詞の一節からとられている。MVが有名なsubterranian homesick bluesの一節you dont need a weather man to know which way the wind blows。組織の攻撃は「シカゴセブン」が逮捕されたのに抗議する1969/10/8デモ行進の前日シカゴ市内にある警官の像を爆破したことがはじまりとされるようだ。
wikiで紹介されている活動内容だけ見ても、攻撃の矛先はばらばら。ベトナム戦争、ブラックパンサー党員殺害、北爆、チリクーデタ、プエルトリコのセメント企業。 このへんは世界同時多発的におきていたニューレフトの迷走をそのままなぞっている。そしてその末路も同じく、皆それぞれに四散してあるものは死に、あるものは逮捕され、あるものは逃げ続けた。逃げ続けた人々も協力者や家族を持ち、名前や出自を偽ってコミュニティに溶け込もうと努力していた。もしその子供たちを視点にしたら、というのが本作の狙い。

脚本のナオミ・フォナーは裕福なNYユダヤ系出身で、ジェイク・ジレンホールの母親でもある。他の脚本にハル・ベリー主演でクラック問題、リチャードギア主演で綴りコンテストを扱った映画、などがある。自身のコミュニティ意識が本作に反映されているのかしら、と類推するが、あんまり詳しく書いていないので不明。やはりそれ以上にリバーの出自であるカルト集団「神の子供達」の面影のほうが濃いのだろう(こちらは68年創立)。
ちなみにペッツォルト「不安」00年は本作によく似た内容、とのこと。

一族を率いる父親はハーシュが演じていて、映画の冒頭で簡単にプロフィールを説明する。かつて研究施設を爆破し清掃員を誤爆してしまったためFBIからおわれている。いまは環境汚染の裁判で原告団に助言をする程度の活動しかしておらず、それさえもFBIの追ってから逃れるために頻繁に住居を変えているので一貫した活動というのはないようだ。見る前はてっきり現役バリバリの爆弾テロ一家の話かと思っていたので、全編まったりしていて少々面食らった。というか現役武装テロの男も出てくるのだが、彼はむしろ一家からも唾棄される存在で、映画の印象ではヤリチンで血気盛ん、倫理観に乏しいクズ、というかんじ。というわけでファスビンダー、クルーゲ、若松映画のような血(痴)がたぎるテロマチズモコミュニティを描いた闘争(逃走)映画ではなく、ユペールがお説教する「未来よ こんにちは」のような映画であった。

この映画では一切でてこないが、ドラッグが反政府活動のなかでどのようにみなされていたのか見たかったな。リバーの演技はアカデミー賞助演にノミネートして一躍大作に抜擢されるようになるが、彼の生い立ちはこの映画にどう生かされたのだろう。特殊な過程に育ったがゆえ、周囲との間に溝を築いて刹那的に関係を消費していく。もうすこし周囲との関係をスリリングにやり過ごすようなバランスもあったらよかった。とはいえ、役者も撮影も非常によい。

両親は彼の音楽的な才能に目をつけ(母直伝の無音ピアノ練習)自身の轍をふませんと息子をひとり置き去りにする。引き受け手になる母と祖父のシーンはよかった。この前見た「三島由紀夫vs東大全共闘」が思い浮かんだ。半世紀ぶりに当時のことを振り返ったかつての「左翼」たちは口ごもるばかり。
映画の中で父親はしきりに資本主義を批判し、物質主義や階級的な社会を批判する。しかし彼らの生活がその物質主義や階級主義を弱めた縮小版で営まれているのを見ると、そもそも議論の前提が間違っていたのではと訝しむが、もはや誰にもとめられない。ただひたすら逃走・闘争を繰り返すだけの疲労が張り付いている。そこに救いや意義はあるのか。
彼らの共鳴者はそこここに潜伏していて、ゆるいつながりは保っている。が結局過去の殺人を総括しない限り、この両親が社会から表立って受け入れられることも、表立った活動もできない。

EDにも使われている劇中歌はJames TaylorのFire and Rain(1970)。母親の誕生日で父親がケーキを切ったあとにおもむろにこの曲を歌い始める。もういなくなってしまった女性のことを歌った物悲しい歌詞。テイラー20のときの歌詞で、お父さんにとっての懐メロなんだろうが、息子の誕生日でこれ歌いますか、と思ったが、映画を終わってみるとまた違って聞こえるかも
Just yesterday morning they let me know you were gone
Susanne 、the plans they made put an end to you
I walked out this morning and I wrote down this song
I just can't remember who to send it to

I've seen fire and I've seen rain
I've seen sunny days that I thought would never end
I've seen lonely times when I could not find a friend
But I always thought that I'd see you again