シズヲ

旅立ちの時のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

旅立ちの時(1988年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

かつてベトナム反戦運動に身を投じた両親と共に逃亡生活を送るダニー。常に素性を変えながら各地を転々とする日々を送り続けていたが、あるとき彼は自らの才能と向き合い、そして青春を知ることになる……。『スタンド・バイ・ミー』から2年、アカデミー賞候補にもなったリヴァー・フェニックス主演作。

“カルト的な活動に関与した両親の都合で各地を転々とする子供”という設定がまさしくリヴァーの生い立ちと重なる部分があって印象深い。リヴァーの繊細で感受性豊かな演技はやはり秀逸で、イノセントな青春と共に瑞々しい存在感を放っている。リヴァーがピアノを奏でるシーン、無垢な佇まいも相俟って何れも美しさに溢れている。マーサ・プリンプトンとの恋愛も“いずれは去る時が来る”という構図によってピュアな切なさが際立っている。そしてお母さんの誕生日パーティーや真夜中に主人公がガールフレンドに秘密を告白する場面など、要所要所で良いシーンがきっちり在るので映画自体が鮮烈な印象を残してくれる。『Fire And Rain』の多幸感、とても愛おしい。良くも悪くも感動が分かりやすい部分もあるけど、シドニー・ルメット監督の手腕のおかげで過剰さは薄いので十分見ていられる。

あれだけ隆盛したカウンター・カルチャーも80年代末期になれば単なる“過去の遺物”であり、子の世代にとっては最早“重荷として受け継がれる呪縛”でしかないというのが哀愁漂う。両親の旧友である過激な活動家の妙な“場違い”感がより悲壮感を浮き彫りにしている。両親は間違いなく自分達のエゴで息子二人を翻弄していたけど、葛藤や愛情がちゃんと掘り下げられているお陰で一定の感情移入は出来る。序盤で祖母の訃報を聞いた父親が「それを知るまで何週間も掛かった」と触れている下り、終盤に家族の離散に対して意固地になる感情の裏付けなのだなあ。終盤に主人公の才能が母親譲りのものだったことが明かされるのも好き(母親がそれを諦めていたことが“息子に対する葛藤”と結び付くのが良い)。

それはそうと終盤に「弟は一人立ちできるまで育てる」と確かに断ってはいるけど、ラストでは(主人公と同じく両親に連れ回されてる子供なのに)場面にぜんぜん関与しないのでもーちょっと触れてやってほしかった。「グッバイ、ダニー!」は好きだけどね。ラストに関しても射殺のニュースを聞いて反射的に息子を追い返したような忙しなさがあるけど、それでも主人公が解放されたことの清々しさがデカいので「まぁいいのかな」となってしまう。
シズヲ

シズヲ