ぶみ

旅立ちの時のぶみのレビュー・感想・評価

旅立ちの時(1988年製作の映画)
3.5
17才一まだ少年、でも大人。

シドニー・ルメット監督、リヴァー・フェニックス、クリスティーン・ラーチ、マーサ・プリンプトン、ジャド・ハーシュ等の共演によるドラマ。
1960年代の反戦運動ひよりテロリストとしてFBIに追われている両親を持つ高校生の姿を描く。
主人公となる高校生・ダニーをフェニックス、両親をラーチとハーシュ、弟をジョナス・アブリー、ダニーのクラスメイト・ローナをプリンプトンが演じているほか、L・M・キットカーソン、スティーヴン・ヒル等が登場。
物語は、ベトナム戦争当時、爆弾工場を爆破し、守衛を失明させてしまったことからFBIに追われている両親とともに、半年ごとに名前を変えて引っ越しを繰り返すという、今では考えられないような生活を送る一家の姿が描かれるのだが、その生活様式に関しては、台詞で細かい説明をすることなく、基本映像で見せてくれるのが非常に自然であり、すんなり、その設定に入り込めることに。
何より、本作品の特筆すべきは、誰もが感じるであろう、劇中におけるダニーの設定と、ほぼ同じ年齢で高校生を演じた亡フェニックスであり、こどもから大人への階段を駆け上がろうとするダニーを、ブロンドの髪をなびかせながら、時に繊細に、時に大胆に、そして、その生活からか、将来に対してどことなく不安の影を常に携えた横顔を見せつつ、見事に演じている。
また、父親を演じたハーシュに関しては、私が最初に彼を観たのが、ローランド・エメリッヒ監督『インデペンデンス・デイ』で、ジェフ・ゴールドブラム演じる主人公の父親・ジュリアス役であったため、脇役的な印象が強かったのだが、本作品では、一家の大黒柱かつFBIから逃げる反戦活動家というアグレッシブな姿であったのは意外であったところ。
加えて、80年代の作品らしく、携帯電話のようなデシダルデバイスが登場しないことから、ダニーとローナの恋模様における心情が手に取るようにわかり、まさにあの頃を思い出させてくれるものであったのと同時に、音楽の授業でラジカセが登場したのは懐かしさ満点。
常に逃げているという設定からくる、そこはかとないサスペンス要素と、定住することのないロードムービー的要素をベースに、フェニックス演じるダニーの青春と家族の物語を、当時の世相を反映させて鮮やかに描き出しているとともに、原題である『Running On Empty』が、走り続けてガス欠状態という意味であるのに対し、ありがちな邦題をつけたなと思いきや、同名タイトルは他に見当たらなかった一作。

ベートーベンじゃ踊れない。
ぶみ

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