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黄色い大地の一人旅のレビュー・感想・評価

黄色い大地(1984年製作の映画)
4.0
チェン・カイコー監督作。

日中戦争最中の中国農村部を舞台に、父と弟の三人で暮らす少女と八路軍の兵士の交流を描いたドラマ。
テーマは新と旧の出会い。国民党支配下の陝西省に住む少女。古い風習や伝統が根強く残る地域であり、叙情的で解放感のある映像とは裏腹に、少女の置かれた境遇は非常に閉鎖的で鬱屈としている。少女の父親もその地域に古くから伝わる掟に従わざるを得ない。それは、娘の結婚相手を親同士が勝手に決めること。そうした地域社会の掟に束縛されて生きてきた少女が、南からやってきた八路軍の兵士と出会い交流を深める中で、やがて“自由”という新しい生き方を懇願し自ら行動に移していく姿を映し出している。
ちなみに八路軍というのは、中国人民解放軍(共産党)の前身に当たる軍組織で、日中戦争時は日本と戦闘を繰り返したことで知られる。つまり本作は、少女を束縛する父親とその地域を国民党、南からやってきた兵士を共産党を象徴する存在としてそれぞれ見なしている。そして、少女と兵士の出会いを通じて、封建的で閉鎖的な国民党社会に対して、新しい生き方に邁進する共産党が新風を吹き込んでいく様を描いている。兵士の存在によって少女の閉ざされた心が外の方向へ解き放たれていく様子は、共産党による中国国民の解放を暗に仄めかしている。
政治的な主張が物語に織り込まれてしまったり、八路軍の兵士が主張する自由に関しても現在の中国社会を考えたら少々疑問が生じる。それでも、今より少しでも人間らしく自由に生きたいと切に願う少女の繊細な乙女心は、その言葉数は少なくともひしと伝わってくるし、そうした少女の悲しみと絶望をたった一人理解し手を差し伸べる兵士の同情と優しさに満ちた姿は感動的だ。
そして、黄河流域の荒涼とした自然風景が美しい(撮影はチャン・イーモウ)。他の中国映画と比べると緑が驚くほど少なく、季節感をあまり感じられない。黄色く濁り悠々と流れる黄河は、旧態依然の中国農村部の停滞を象徴するようだ。
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