轟夕起子があまりにゴージャスで、ブルジョワ婦人を見事に演じているのに比して、相変わらずつつましく、ぼしょぼしょっとふやけたような声で話す田中絹代に青年が恋慕するに足る魅力がほとんど感じられないように思われるものの、『お遊さま』しかり、彼女が日傘を持って歩きだすとなんだかそれで充分だと思えてくるところがいつも狐につままれたような気持ちがする。
武蔵野の美しい雑木林や水路を観ながら、ルノワールの『ピクニック』を思い出すのも心地よいし、およそジュリアン・ソレルとは程遠い感じのする森雅之演じるツトム青年が家庭教師をするとこなんかを観ているとやはり『赤と黒』を読み返したくなってくる気もする。