ALABAMA

砂時計のALABAMAのネタバレレビュー・内容・結末

砂時計(1973年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作。監督・脚本はヴォイチェフ・イェジー・ハス。ポーランドの映画。
ヨーゼフは列車に乗って街の郊外にあるサナトリウムに父を訪ねてやってきた。荒れ放題の館内に、挑発的な看護婦、そして小綺麗で胡散臭い医師、ベッドに横たわる祖父。ふと窓の外を眺めるとその情景は過去の情景。ありとあらゆる空間、時間が交錯し、変化する中で彼は彷徨う。
物語に出てくる人物達はユダヤ人ばかり。原作を書いたブルーノ・シュルツも監督であるハスもユダヤ人であり、戦中を通して虐げられた過去を共有する2人でもある。本作はその抽象的な感情と印象の記憶の断片的な記録であるとも捉える事はできる。鬱屈した陰のエネルギーとそれに相対する陽のエネルギーが混ざり合わさり、映画は観た事もないような色合いと匂いを見せている。
この映画はスジを理解しようとしても、世界観を理解しようとしてもそれは無駄な努力で終わるだろう。なんとも言えない奇妙な世界の中で観客は迷う。そして映画の中の人物も迷っている。寺山の映画のように自己解放の欲求ではなく、主人公は過去に喰われていく。結末も何も分からないし、ただひたすらに目の前で展開される物語に戸惑うしかなかった。この映画は観客に語りかけるのではなく、観客を引きずり込むタイプのアート映画。空間、時間が転換する度に次はどんな世界なんだろうとワクワクしていた。
非常に高いレベルで完成された映像美は観ると圧巻である。スクリーンには錯綜しつつも、綿密に構成された時間と空間が横たわる。暗部の強調された暗い画と隙間風のような音楽はこの作品の得体の知れなさと不思議な世界観を見事に作り上げる。芸術性の高い本作は、崩壊しつつも完成された映画の一つの形であり一度鑑賞してみて頂きたい。2014年にDVD化されている。
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