カトキチ

椿三十郎のカトキチのレビュー・感想・評価

椿三十郎(2007年製作の映画)
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つい先日BSプレミアムで放送していたので14年ぶりに鑑賞した。当時はかなり酷評していたのだが、いま観たらめちゃくちゃおもしろかった。というよりそもそも「椿三十朗」という物語は脚本の完成度が圧倒的でそのままやればどう調理しようとおもしろくなるという保証があるからだと思う。

黒澤版とワンシーン交互に観たのだが、このリメイク版は会話のテンポや間がかなりゆったりしていて、黒澤版はこれに比べるとまるで「シン・ゴジラ」を観ているかのような錯覚を起こす。

ただ、森田芳光という監督はその独特のテンポや間で一世を風靡した人である。それこそ自体が切迫しているのにもかかわらずのんびり避暑地で殺し屋がすごすなんていう「ときめきに死す」なんていう映画もあるくらいで(よく考えるとラストが壮絶という意味でも「椿三十朗」と同じである)、その観点からいけばカルト的な人気になってもおかしくはない。だからこそぼくも今更になってハマったのだと思う。

黒澤版よりも良いと思ったのは30人斬りのシーン。黒澤版はそれこそ目にも止まらぬ速さで斬っていくが、森田版は20人に減らされ、さらにそれを斬るのにかなり苦戦している。このことによって仲間の9人がいかにヘタこいたかが分かりやすくなったし人を斬ることをなんとも思ってなかった三十朗に奥方の言葉が刺さったという人間味が加わった。

全体的に残念なのは良かったところでもあるのだが、独特な間にしてしまった結果、1時間38分だったオリジナル版が2時間に伸びたこと。30人斬りも確かによかったのだが、10人減らされたあげくにシーンは伸びてしまった。一事が万事この調子で入江たか子のポジションをうけついだ中村玉緒がそれに輪をかけてゆったりしてしまったために緊張と緩和で笑いを取れなくなったのは惜しい。当然クライマックスもかなり長くなり、なんなら三船敏郎がどうやって斬ったのかをわざわざスローモーションで説明するという奇怪なシーンが加わったのだが、長年どうやって斬ったかがわからなかったぼくにとってはある種のサービスになってるとは言える(ちなみに今はyoutubeで解説しているのでそれを見ればいいわけだが)

といったわけで、このリメイク版。森田芳光の「ときめきに死す」を念頭に置いて観るのがおすすめ。というか織田裕二の演技ってやっぱり変だしおもしろい。古畑のときの田村正和みたいだ。
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