不在

WANDA/ワンダの不在のレビュー・感想・評価

WANDA/ワンダ(1970年製作の映画)
4.6
映画の冒頭、ワンダは自分の子供に対して、「私がいると不機嫌ね」と言い放つ。
なんて稚拙で幼稚な言葉だろう。
自分がいない時の子供の機嫌なんて分かるはずがない。
彼女は自分の外の世界というものが観測出来ない。
加えて知能の発達も遅れているようだ。
何でも言われるがままで、主体性が全くない。
ワンダはまだ幼い子供なのだ。
子供にとって、大人の言う事は絶対である。
例え何処にいようとも、彼女は誰かの言いなりになるしかない。
しかし彼女は好きでそうなった訳ではない。
女性の意見を聞かず、都合の良いように扱ってきた社会の構造が、彼女に成長の機会を与えなかったのだ。

本作の公開から約50年の時が経っても、残念な事に女性に対する聖母神話から人々は抜け出せていない。
観客は未だに主人公ワンダを一人の女性ではなく、誰かの妻や母として捉えるだろう。
子育てもせず、夜中に酔っ払って帰ってくる父親なんて腐るほどいるのに、それが女性になった途端、たちまち人間失格の烙印を押されてしまう。
実際そういった男が主人公の安い感動映画は山ほどあるが、その多くは男という生き物だけを礼賛して終わる。
現代でも多くの事がこの作品から学べるという事実は、それだけ多くの問題が根強く残っているという事だ。
こういった映画の価値がなくなる事こそが、我々の目指すべき社会なのかもしれない。
不在

不在