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孤島の王のodyssのレビュー・感想・評価

孤島の王(2010年製作の映画)
4.0
【非行少年にはワケがあるか?】

1915年のノルウェーで、実際に起こった事件をもとにした映画だそうです。

1915年といえば、ヨーロッパでは第一次世界大戦の真っ最中。ただしノルウェーは中立を保っていましたので、戦火の影響は直接的にはなかったようです。

非行少年を集めた孤島の施設で行われていた懲罰や苛酷な鍛錬、性的暴行などを扱っています。非行少年だから施設に入れられるにはそれなりに理由はあるわけですが、この映画ではあくまで少年たちは被害者で、当時としては自明視されていた施設の設備や管理のあり方に問題があり、そこから暴動が生じる、という設定と筋書きです。

この映画に足りないものがあるとすれば、非行少年たちの家庭環境がどうだったのか、ということが明確にはうかがえないところでしょう。

少年に限らず、人間が犯罪行為を犯すのには大きく分けて二つ説明があります。環境説と素質説です。

環境説は、貧乏で食い詰めた人間が犯罪に走るのだ、少年なら貧乏だけでなく親から愛情を注がれずに育ったために非行に走るのだ、というような考え方。
素質説は、同じような家庭・経済環境で育っても犯罪に走る人間とそうでない人間がいるのだから、犯罪人や非行少年はもともともそうなりやすい素質の持ち主だったのだ、という考え方です。

おそらく、双方の説はどちらもそれだけで100%成り立つものではなく、どちらもある程度正しいのでしょう。しかしいずれにせよ、そうした背景(貧しかったから非行に走った、家庭環境は悪くないのにワルだった、など)が描かれないと、少年たちを純粋な被害者と想定することが難しくなる。

むろん、どんなに悪質な非行少年でも施設で虐待行為を受けていいはずはありません。しかし、昨今のイジメ問題でも明らかなように、非行少年の犠牲になった無辜の子供は確実にいるわけであり(20世紀初頭のヨーロッパなら、例えば有名なドイツ作家ヘッセの『デミアン』にはそうした不良少年が出てきます)、そうした一方の事実を無視して非行少年を大人の犠牲者としてだけ捉えるのは、いくぶん感傷的な甘い見方と言わざるを得ません。

・・・と、この映画の欠点を最初に長々と書いてしまいました。しかし、作品全体をおおう灰色のトーンと、大人と少年たちの葛藤、当時の矯正施設の様子などは、見ていて大変に興味深いし、不良少年同士の友情もそれなりにしっかり描かれています。決して出来の悪い映画ではありませんし、むしろ秀作の部類に入るでしょう。

なお、作中に何度か出てくる鯨を、たんに自由への衝動の象徴とするのは表層的な見方でしょう。今もノルウェーは日本と並ぶ捕鯨国として知られていますが、20世紀初頭のノルウェーは英国と並ぶ二大捕鯨国家でした(英国は現在は捕鯨に反対しているけれど、1960年代までは大々的に捕鯨をやっていた)。捕鯨はノルウェーにとって重要な産業であり、少なからぬ人間が関連産業で働いていたのです。鯨はそうした時代相の表現でもあることを見ておかなくてはなりません。
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