近本光司

預言者の近本光司のレビュー・感想・評価

預言者(2009年製作の映画)
4.0
十九世紀にヴィクトル・ユーゴーは学舎がつくられるたびに獄舎は閉じられると言った。しかし百年余り経ったいま、しばしば獄舎は犯罪の学舎であるとも言われる。根無草の若者が悪の跋扈する刑務所で生存するには、みずから強いものに巻かれていかなければならない。その判断を見誤れば、権力は容易に失墜し、ときには死さえ訪れる。
 アラブ系の出自をもつマリクは孤児で、ろくに教育を受けることもできず、文字を識らないまま若くして牢獄に入れられる。コルシカのマフィアたちのグループに仕えて悪事に手を染めながら、生存のための隘路をくぐり抜けていく。この主人公の存在そのものが、一見対立するかのような冒頭の二つの箴言がいずれも真であることを証明している。
 刑務所を仕切っていたコルシカのボスが腹に一発食らって、地に崩れ落ちていく。そのさまをアラブたちに囲まれてただただ見つめているマリク。このときのタハール・ラヒムの表情のいかに雄弁なことか。