シズヲ

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアのシズヲのレビュー・感想・評価

3.9
「天国じゃみんな海の話をするんだぜ」

難病によって余命幾ばくもない男達。死ぬ前に何がしたい?一度も直に見たことがない海へと行きたい。天国は海の話で持ちきりらしい。なら一緒に突っ走ろうぜ、俺達二人で……。なんやかんやギャングの高級車を盗んで、いざ終末旅行へ。

死を間近に背負ったクライム・ロードムービー。しかし物語の下地とは裏腹にユーモラスな要素がとても強くて、スタイリッシュな音楽と共に描かれるコメディ的な逃避行がやけに楽しい。90分程度の尺なのでテンポも程よくて気持ちいい。各地で犯罪を繰り返しては気ままに遊んでいく主役二人の姿はあからさまに無軌道なのに、どことなく漂う男臭い無邪気さも相俟って“最期の思い出作り”と言うべき味わいに満ちている。正反対だった主役二人のブロマンス的関係もなかなかどうして愛おしく、死を覚悟した瞬間に二人で手を握り合う場面は明らかに愛があったので凄い。どれだけ派手に撃ち合ってても決して人が死なないので、内容は刹那的なのに血生臭さがないのも何だか面白い。そしてそれ故に突然始まる発作が“死のイメージ”として機能している。

マフィアや警察を含めて登場人物はみんな間が抜けていて、更に主役二人にとって絶妙に都合良く事が回るので小気味良いドタバタ感がある。ご都合主義的な展開はかなり多いけど、ユーモアに傾いた作風のおかげで「まぁ楽しいしいいか」と思えてしまうのが微笑ましい。死へと向かう男達の旅路がこれだけ愉快かつ小粋に描かれることの慈しさが好き。まぁ率直なセンチメンタルゆえに良くも悪くも素朴すぎる感もあるけど、それ故にポップで無垢な愚直さがあって何だかんだ憎めない。要所要所での情景描写も良いけど、やはり二人が海へと辿り着くラストシーンが実に印象深い。“死の世界”を連想させるような荒涼とした景色と“旅の終わり”を否応無しに実感してしまう二人の後ろ姿の切なさ。

それと我が愛読マンガ『明日、私は誰かのカノジョ』でこの映画がかなり直接的に言及されていたので何だかビックリした。「天国では海の話〜」の台詞もルディとマーチンのラストシーンも出てくるし、章タイトルでもガッツリ引用されているので凄いぜ。
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