きゃんちょめ

ヤバい経済学のきゃんちょめのレビュー・感想・評価

ヤバい経済学(2010年製作の映画)
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【二人の商人】

昔、江州の商人と他国の商人が、二人で一緒に碓氷(うすい)の峠道を登っていた。焼けつくような暑さの中、重い商品を山ほど背負って険しい坂を登っていくのは、本当に苦しいことだった。途中、木陰に荷物を下ろして休んでいると、他国の商人が汗を拭きながら嘆いた。

「本当にこの山がもう少し低いといいんですがね。世渡りの稼業に楽なことはございません。だけど、こうも険しい坂を登るのでは、いっそ行商をやめて、帰ってしまいたくなりますよ。」

これを聞いた江州の商人はにっこりと笑って、こう言った。

「同じ坂を、同じくらいの荷物を背負って登っているんです。あなたがつらいのも、私がつらいのも同じことです。このとおり、息もはずめば、汗も流れます。だけど、それでも私は、この碓氷(うすい)の山が、もっともっと、いや十倍も高くなってくれればありがたいと思っていますよ。」

他国の商人は耳を疑い、次のように言った。

「そんな馬鹿な。この山は低い方が良いにきまっている。」

そこで江州の商人は答えた。

「そうとも限りません。だって、山が今よりもずっと高ければ、たいていの商人はみな、あなたみたいに中途で諦めて帰るでしょう。その時こそ私は、一人で山の彼方へ行って、思うさま商売をしてみたいと思います。だから、碓氷(うすい)の山がまだまだ高くないのが、私には残念ですよ。」
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