クシーくん

茶碗の中の嵐のクシーくんのネタバレレビュー・内容・結末

茶碗の中の嵐(1937年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

恐らくアメリカのロマンチックコメディの模倣に社会風刺を加えた作品なのだろうが、いずれも中途半端で図に当たっていたとは言い難い。

ヴィヴィアン・リーとレックス・ハリソンが惹かれ合うようになっていった流れも納得のいく類の物ではなく、二人の付かず離れずの関係もロマンスを掻き立てられない。直裁に言えば余り脚本が上手くない。ただヴィヴィアンリーはやはり美しい。父親を批判するハリソンを振り向き様に顰み顔。

最後のどんでん返し(?)で完全にストーリーは破綻していた。お父さんは悪い人ではないとハリソン自身は言っていたが、権力を笠に来て弱者を虐げ、最後まで反省せず自らの保身には走っただけの男は普通に悪い人でしょう。途中まで健闘してただけに最後のあれはやはり頂けない。あと犬の問題以上に、直接的な描写こそないが他人の妻に手を出している事実の方が致命的なスキャンダルに思うが、こちらは軽く済まされているのも不完全燃焼。

政治風刺的な作品として当時としては斬新だったであろう事はなんとなく窺える。税金5ポンドも支払えなかった筈のヘガティおばさんが、弱者として世間から擁護と称賛の嵐を受ける事で焼け太りしていたのは実に皮肉で、1930年代時点でメディアのゴシップに扇動されて右往左往する大衆の姿は現在のSNSのトレンドや炎上に通じる。水泳大会→中止はいかにもイギリスらしいギャグでちょっと笑った。

このような細かい部分で面白い点は多々あった。スコットランドの法廷がああいうスタイルなのか知らないが、被告人席の床が開いて地下から上がってきたハリソンが思わず「オペラ座の怪人になった気分だ」は笑った。レックスハリソン独特のブラックジョークが連発されるのは相変わらず楽しめたが、今回のハリソンは社会正義に目覚めた人物なので、いつもよりは皮肉も台詞も抑えめで少々物足りなさはあった。
しかしなんと言っても犬の洪水とも言うべき大スペクタクルには文句なし。映画自体としてはあれが最大というよりは唯一の見所と言うべきかもしれないが。

あと乾杯する時に椅子の上に立つとか変な風習が気になった。軽くググっても出てこないのだが、スコットランド独自の風習なのか?射的の代わりにボールを投げつけてカップや皿をぶち割る野蛮な遊びとかも出てきて、当時の風俗が色々観られたのは楽しい。
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