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愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像のgeminidoorsのレビュー・感想・評価

4.1
過去鑑賞5-6回

以前一時期暮らしたY県は直ぐ隣りが教育県とか何とか称されるN県で、図書館のアート関係蔵書も充実していて、なんと其処で本作を借り初見したのが懐かしい。
後BSからダビングしたVHSと合わせて常に独りで鑑賞。ベーコンの画集を見てもこの様な絵はワカラナイと苦笑いでそっぽ向く元妻が寝静まってから、何か奥深い視てはいけない秘密を探る様に鑑賞。

元々作品ストーリー等には期待していなかった。レビューがわりかし高配点なのは映画の好みとしてではない。
ベーコン絵画そのものは一枚も画面に出ない(許可が下りなかったらしい)のだが、全体から立ち昇るトーンというか匂いというかが、かなり本物から感じられる其れに近く感じる処が大であった。
画家のアトリエ再現や服装等も考証はたしかで、何より幾枚も映された制作途中のキャンバスは誰が描いたのかーかなり本人の独自な描き方を追求した末にのリアルさだと感じた。

未だ世界中に名を売り出す前?の黒髪ダニエルに対しての態度や暴言。"あくまでキャンバスに炙り出す(或いはえぐり出す)為の、モチーフ(或いは実験対象)でしかない"かのベーコンの姿勢(精神)が、イコール画家の"芸術に対する真摯さ"や深くて重い碇だとしたら…
その碇は近しい者を傷つけがちなのは実体験からよくよく解る。嫌という程に。
横暴で、我儘で、傲慢に、我が制作の為だけに徹してこそ、深くて重い何かに近づける…もしそうなのだとしたら….
真摯に目指すべき先は、幾つもの不幸の上にのみ在る"幸せ(到達点)"なのだろうか…

不図この作品を思い出して、しばし想い巡らした。
それだけで自己の色んな苦い出来事を思い出してしまう位だから、ベーコンの絵画のチカラは或る意味凄いのだろうし、この映画自体のイメージやトーンも凄いのかも知れない。
唯ワタシにはであり、万人に決してお勧めしたりはしない。それも又横暴だ。
若向きに一言で断てば、この映画はベーコン絵画に惹かれてしまう輩以外には"暗い"だけだから。

碇の切っ先は向けられない方がいいかも知れないー
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