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愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像のyuiのレビュー・感想・評価

4.2
画家フランシスの狂気と愛、我々をその恍惚へ誘う退廃のフィルム。詩的な表現の台詞が非常に美しい。

恋人が自分のせいで狂ってゆく様を愛でることで、益々恍惚たる快楽に堕ちてゆくフランシス。愛している故にその死すらも美しく、むしろ愛しているうちに死んでくれと言わんばかりのアンバランスと強烈な狂気は、愛と呼ぶには邪悪すぎるが、ただの邪悪と呼ぶには純すぎた。

愛の悪魔に魅入られ、その狂気に抱かれて自らも愛に狂ったジョージ。
彼が死にたいのも死ねないのも、なにもかもがフランシスのせいであった。
二人で何処までも堕ちる情念の先には、カタルシスと忘我の快楽だけが存在していた。

愛ゆえの狂気はなぜこれほどまでに強く「真実の愛」を感じさせるのだろうか。
例えば、絵具と共に筆にのせられたフランシスの歪んだ想いに人々が至上の高揚と歓喜を覚えるのは、バランスを失い歪んでいるからこそ、その存在や想いが完全なものになり、強烈に訴えかけるためであろう。

フランシスが事故現場の遺体の様子を美しく思うのは、死よりも、失われた「生」のほうがむしろ強く感じられるからだ。血の絵具で彩られた魂の器は、生きている人間よりもずっと多くを語るのだろう。

平静よりも激情を、純情よりも情欲を。
整然と片付けられた空間よりも雑然としたアトリエでこそ宿る魂を、美しい言葉で飾った台詞よりもノイズまみれのラブソングを。
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