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逃亡地帯のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

逃亡地帯(1966年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

石油成金のバルが牛耳るテキサスの田舎町。住民たちは夜ごとの派手なパーティで退廃しきっていたが、保安官カルダーだけは正義を貫こうとしていた。 そんな彼のもとに、町の厄介者ババーが刑務所を脱走し、妻アンナのもとに向かっているという情報がもたらされる…。

こんな超豪華キャストの作品があったのか?と惹かれて鑑賞。
人間の正義と集団心理の恐怖を描く、「俺たちに明日はない」のアーサー・ペン監督の衝撃的なサスペンスの秀作。

町の人々の複雑な人間関係と爛れた生活を丹念に描く前半が長いのが難点だが、キャストに見惚れ、退屈は少ない。
そこに脱獄囚が町に舞い戻ってくる噂があっという間に広がり、後半から町は異様な興奮に包まれる。
前半の丹念な描写があるからこそ、後半の急展開に納得がいく。
石油で潤い、享楽的な生活を送る町の人々は、更なる刺激を求めて、町に戻るであろうババーをひっ捕らえようと次第に正気を失ってゆくのである。

やがてババーは町外れの廃車置場に潜伏し、黒人整備工に妻への伝言を託すが、いち早く気付いた保安官は、危険な事態を避けるために、黒人を保護する。
だが、興奮して理性を失った町の男たちは保安官事務所を襲撃、保安官を殴り倒し黒人にババーの居場所を吐くように迫る。

一方、かつてババーの親友で、彼の妻を寝取った事に負い目を感じていたジェイクは、アンナと共に廃車置場に向かい、ババーに危険を知らせようとするが、時すでに遅し、町の人間たちが押し寄せる。

ババーを燻り出すために投げ込まれる花火と火炎瓶、引火して吹き飛ぶ修理小屋。
煙の中を逃げ惑うババーとジェイクとアンナを助けるため、保安官カルダーは重症の身体を引きずり廃車置場に向かう。

南部の上流階級の退廃的な生活、銃社会の狂気、複雑な人間関係、そして集団が暴走し、秩序を失ってゆく様を見事に描いている。

保守的な田舎町の異端を許さない歪な暴力は、後の「イージー・ライダー」にも繋がる。
思い込みが憎悪となり、狂騒へと変わる様子は、まるでKKKの襲撃のようだ。

厄介者であるはずのババーは意外にもお人好しで、心根の醜い人間たちに囲まれて死んでゆくのだが、演じている若き日のロバート・レッドフォードが、そのルックスの良さもあり、チョイ役ながら劇中で最も美しい人物に見えるのが何とも皮肉だ。
また、当時は反抗的なタフガイのイメージが強いマーロン・ブランドが、町の人々に殴られて血に塗れながらも、抵抗せずストイックに法と秩序を守る保安官を演じているのが意外。

白人社会の崩壊は「観客に夢を与える」当時のハリウッド映画の方定式から完全に逸脱した問題作と言えるだろう。
同監督の「俺たちに明日はない」の僅か1年前の作品。
アメリカン・ニューシネマは、突然変異で生まれた作品ではない、ということが知ることができる貴重な作品だ。
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