砂場

逃亡地帯の砂場のレビュー・感想・評価

逃亡地帯(1966年製作の映画)
4.4
この町の全てが狂ってる
まずはあらすじから

ーーーあらすじーーー
■ババー(ロバート・レッドフォード)は仲間と二人で脱獄。艦首の銃撃から逃れ街道に出る。通りかかった車を奪うが、仲間が持ち主を殺して車で逃げてしまう。
このままでは自分に殺人容疑が、、ババーの逃亡
■アメリカ南部の田舎町、保安官のカルダー(マーロン・ブランド)はババー脱獄の知らせを受ける。
■ババーの妻アンナ(ジェーン・フォンダ)とジェイクが不倫関係。
■石油で成金になったジェイクの父、バルは保安官にも献金したり、カルダーの妻ルビー(アンジー・ディキンソン)にドレスを贈ったり買収工作を行っていた。
そのことで住民からカルダーは悪口を言われていた。
■成金住民たちはやることがなく、乱行パーティーで泥酔、その子供たちもハメを外していた。
どこからともなくババーがこの街に来るという噂。
■ババーの両親は息子を気に病んでいた、そこに付け込む修道女、近所の老夫婦もババーの両親に嫌味をいう。
ババーが妻アンナとジェイクの不倫を知ったら殺されると街の住民は父のバルに二人の交際を告げ口する。
■ババーは人の家で盗み食いなどしながら街に帰ってくる。車の解体工場のところに身を隠す。顔馴染みの黒人に密かにアンナへの伝言を頼む、黒人はアンナの家に行くのだが、留守。そこに町の自警団気取りのおっさん4人が黒人が白人女のところに何のようだと
詰め寄る。暴行されそうになるが軽ダーが勾留すると言って署に連れてきた。
あいつらに殺されるぞ、署にいれば安全なのだ。
■バルはババーの居所を黒人が知っていると知り、保安官の署に突撃。カルダーが止めるが4人組はカルダーに殴るける、バルは黒人を暴行しババーの居場所を聞き出す。
カルダーは血まみれになりながらババーの保護のために向かう、妻ルビーは止めるのだが聞かない。


<💢以下ネタバレあり💢>
■ババーの隠れ家にアンナとジェイクがきた。車を金を用意してくれと頼む、ババーはアンナとジェイクが付き合っていることは感じていた。
そこにバルが来た、ジェイクに戻ってこいと叫ぶ。ババーも逃してやる
しかし追いかけてきたのは4人組、さらに聞きつけた妻や悪ガキたちも車やバイクで集まってきて大賑わいに。ババー出てこいと群衆は叫ぶ、ババーの歌を歌うもの、花火をあげるもの。誰かが火炎瓶を作って次々投げ込んだ、燻り出すつもりだ。
カルダーは到着したが群衆を抑えることができない。ガソリンが引火し大爆発。車の破片がジェイクにあたり大怪我、ババーにおっさんが銃を向けるがカルダーがババーを逮捕した。
署に連行する、周囲は群衆、ババーの両親は涙。
署の入り口でおっさんの一人が銃でババーを撃ち殺す、カルダーはぶん殴り男は連行された。
■荷物を積んだ黒い車、カルダーは妻とこの町を出てゆく
■バルの邸宅、玄関に座るアンナ。バルは息子は助からなかったと告げると呆然としたアンナは立ち去っていった。
ーーーあらすじおわりーーー


🎥🎥🎥
マーロン・ブランドのかなり渋い一作、
原作が『アラバマ物語』のホートン・フートなので、法の正義を追求するモチーフは同様である。
ただ、『アラバマ物語』の方はええ話として家族みんなで正座して見るような感じだが本作『逃亡地帯』はかなりの胸糞映画であり家族と見たら間違いなく嫌がられる。

アメリカ南部の田舎町、しかも石油で成金になった町。大人たちは乱行パーティー、その子供たちも親に影響されてはちゃめちゃ。
保安官も石油王に買収され取り込まれている、人の噂はすぐに広まる閉鎖的な場所。

ラストの車解体工場に集まる群衆シーンは最高に胸糞である。群衆の怖さというとフリッツ・ラング『M』やフランク・キャプラ『群衆』では、憎悪に満ちて正義の暴走をする群衆がおっかない。
この『逃亡地帯』の群衆はそれとも違っていて、逃亡犯ババーが殺しに来たというデマをまに受けて集まってきて祭りのように狂騒的な馬鹿騒ぎをする。オリジナルのババーソングをギターを手に歌い出す人も
いるし、日頃の鬱憤を晴らすように泥酔状態の人もいる、何人かの過激な連中が火炎瓶で火をつける、
若い女の子が自分のネックレスを投げ入れ、私は好きなら取ってきなさいよと男の子を煽る。
この群衆が怖いのは、突然豹変したのではなく元々こんなバカ連中だったところだ。元々バカ騒ぎをしている中で”ネタ”としてババーが投下されたに過ぎない

こんな狂った町でマーロンブランド扮するカルダーは法の正義を守るべく、黒人や逃亡犯を公平に扱おうとするのだが、、、
ところでカルダーの勤務先玄関にSheriffと書かれているので、彼は保安官なので警察官ではないようだ。
アメリカでは市警のない郡では保安官が警察同等の権限を持っている。
保安官トップは選挙で選ばれるので、特に田舎では自分の町は自分たちで守るという自治の伝統が強く残っていると思う。
ババーを狙うおっさん4人組も自警団気取りであるが、そもそも保安官も自警団だったのであっていかにもアメリカな背景がある。
閉鎖的な田舎というと『ミシシッピー・バーニング』、あの差別主義者も保安官だ。

とにかく救いのない話だ法による正義は挫折、町の人々は三世代に渡ってバカ、教会も救いにもならず、、、カルダー夫妻には子供がおらず
養子を迎えるかどうかなど話している。こんな町では子供がいてもしょうがないという諦念も見られる。ただ所々に見られるちょっとした人間味、正義のために頑張ったカルダー、白人を庇い暴行を受けた黒人、意外にストイックな愛情を見せたアンナ、息子への愛情は本物だった成金のバルこれらをかき集めてなんとか鑑賞の平常心を保てる
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