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音のない世界でのあのレビュー・感想・評価

音のない世界で(1992年製作の映画)
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「耳の聞こえない人の国(原題)」を区切る有形/無形の境界がある。映画に登場するろう学校のカリキュラムの数々はその境界を越える試み。手話だけでなく、(擬似的であっても)音声による会話を習得させようと、補聴器をつけた子どもたちの耳元で発声したり、読唇の方法を教えたりする。
 教壇に立ちながら「生まれてくる子含め家族全員ろう者だったら良かった」とインタビューで応えてしまう手話教師の男性。彼はその「国」を出ようとはしない。また、(彼らの意思はさておき)ろう者どうしで結婚するカップル然り。
 しかし、ふいに境界を飛び越えることがある。キャメラに反射する母親の口元を見つめる少年。このときフレームが恰も境界であるかのように作用する。彼の小さな手によって、それまで姿を隠していたキャメラとマイクの存在が急に現れたとき、少年はフレームを飛び越え、「国境」を飛び越えてしまう。

 この映画で取り上げられた人々は文字通り老若男女。「国境」を越えることを放棄した老人は少年の未来の姿だろうか?私は未来への期待だと受け取りたい。
あ