CHEBUNBUN

音のない世界でのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

音のない世界で(1992年製作の映画)
3.5
【辛抱による対話とコンピュータ】
早稲田松竹でニコラ・フィリベール特集が行われていたので観てきた。カイエ・デュ・シネマベストに選出された代表作『音のない世界で』は90年代のコンピュータにかける希望が垣間見える意外な作品であった。

静かな空間、緊迫感張り詰める空間で手話による演奏が行われる。静かだが饒舌に感情的に奏でられる旋律に惹き込まれる。ろう者の苦悩がインタビューで紐解かれる。俳優になろうとするも、口パクだけではなく声を乗せる必要があったため有名監督作品に出られなかった悲哀が語られる。映画はインタビューと子どもたちへの教育パートが交互に展開されていく。個人的に子どもパートが興味深い。子どもは先生の言葉が分からない。辛抱強く先生や親が声を与えることで、何を言っているのかを把握させようとする。この地道で長い道のり、音のない世界で生きる者にとって音を捉えることすら難しい中でコンピュータに希望が託される。コンピュータはデジタルに主体の発する音が正解かどうかを分析する。そして、視覚的にあっているかどうかを判断する。人間のように苛立ちを見せることなく、画一的に評価する。人間パートの壮絶さを踏まえて、コンピュータの利用に活路を見出すアプローチは慧眼であった。
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