nowstick

ダイヤルMを廻せ!のnowstickのレビュー・感想・評価

ダイヤルMを廻せ!(1954年製作の映画)
4.0
刑事コロンボや古畑任三郎にも影響を与えたであろう倒叙ミステリー映画の原点で、普通にちゃんと面白かった。

ただこれはコロンボや古畑にも言えることだが、倒叙ミステリーには明確に弱点があると思う。普通のミステリー作品と違って「誰が犯人か?」でラストまで引っ張るのではなく、最初に犯行を見せておいて「どうやって、この完全犯罪が破綻するのか?」でラストまで引っ張るのが、倒叙ミステリーだ。その為には観客に「どうやったらこんなに完璧な犯罪がバレてしまうのだろうか?」と最初に思わせる必要がある。そう思わせる為には、物語内で犯人が明確な物的証拠を残す訳には行かず「ラストに出てくる証拠が激弱な状況証拠となってしまいがち」という点だ。本作も証拠が薄くて、事件解決感と話が落ちた感が薄れてしまっている。
ヒッチコックは本作の6年前にもロープという作品で倒叙物をやっているが、ロープの時は本作とは真逆で、犯人が明確な物的証拠を大量に残しすぎていて、「いや、こりゃ流石にバレるに決まっているだろ!」と思ってしまい、全くスリリングでは無かった。
そう考えると、コロンボや古畑がミステリーから遠ざかり、犯人との対決を描いた人間ドラマに移行して行ったのも納得が行く。

良かった点で言うと裁判シーンが極端に短縮されていた点だ。ヒッチコックは他のサスペンス映画においても裁判シーンが割愛されていたりするが、本作はそれが顕著だ。ヒッチコックは、裁判シーンが始まると別の映画が新しく始まったみたいで、観客の気持ちが離れてしまうのを危惧して割愛したらしい。しかしヒッチコックのサスペンスはリアリティが無くミステリーとしては破綻している事も多い為、ボロが出ない為にも、裁判シーンはなるべく短く済ますという判断は、正しかったんだろうと、個人的にも思う。

他にも、良くも悪くも幾つか気になる点はあったが、本作は新しい事を映画表現に落とし込めているのは間違いないので、普通に良い映画だと思う。
nowstick

nowstick