すえ

偽牧師のすえのレビュー・感想・評価

偽牧師(1923年製作の映画)
4.5
記録

チャップリンレビュー(3/3)
めちゃくちゃ面白い、コメディとしての完成度が高い。緊張感があるようでないような感じがたまらない。子供が好き勝手するシーンが好きすぎる、可愛いし面白いしで、ここ最近で観た映画でいちばん愉快なシーンだった。
これで多分チャップリン映画の長編は大体観たはず、どの作品も違うよさがあって、どの作品も歴史的価値がある、そんなチャップリンが大好き。

2023,149本目(チャップリンレビュー)
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 1923年作。ファースト・ナショナル映画最後の作。このあとチャップリンはダグラス夫妻とグリフィスとの4人でユナイテッド・アーチスツを創る。『偽牧師』(原名 ザ・ピルグリ厶=巡礼者、さすらい人)。全4巻。いよいよチャップリン映画はドラマチック・コメディーと呼ぶ人生劇に進む。中学1年(旧制)のころであったか、この『偽牧師』のチャップリン扮する牧師が両手を合せて、ひざのあいだに入れ、ツバヒロ帽の牧師姿で腰をかけた両足をひろげて曲げている面白いポーズにおかしいというよりもチャップリンの偉大なる芸術家といえる香りをその1枚の写真からかいだのだった。もうゲラゲラ笑いのスラップスティック喜劇のチャップリンではなく特別上映館で特別入場料で特別の名作を見せる芸術家の芸術映画の香りをかいだのであった。そして映画もまたのちに「黄金狂時代」につながる人生ドラマに移り、美しさよりも苦しみが、苦しさよりも憎しみが、憎しみよりも悲しみが塗りこめられてきているのであった。脱獄者が牧師の服を着込んだばかりに本物の牧師にまちがえられ、説教をし寄進の金も集まったとき、その田舎の小さな町の通りで刑務所仲間の男に会い、その男が説教で寄進された信者のさいせん箱を盗む。それを取りかえすための苦心。しかし保安官に身の上がわかり、とらわれて国境の荒野に。ここで保安官は逃げろとばかり花をつみにやらせたまま去ってゆく。チャップリン、喜んだものの、そこは国境。メキシコ方向に逃げると岩かげから馬賊、アメリカ方向へ移るとそこにも西部の悪党たち、ついに困ってチャップリンは国境線の、その1本線の右に右足、左に左足をかけながら砂嵐の向こうへ去ってゆく。このラスト・シーンで大いに笑わせたが、前科者の人生、そして「キッド」の子供、「犬の生活」の犬、あの美しい愛はここにはまったく無く、ここに出てくる何という嫌な子供、何という嫌な母。囚人仲間のユスリにしろ、この『偽牧師』はこれまでのチャップリン映画の美しさはかき消えて、人間この世の住みにくさ。ピルグリムその名のままの人生の巡礼者、チャップリン映画が次第にこわい真顔(まがお)を見せだした、きびしい名作。教会執事(マック・スウェイン)、娘(エドナ・パーヴィアンス)、保安官(トム・マーレー)、囚人仲間のユスリ男(チェック・ライズナー)、悪童(ディンキー・ディーン、チェック・ライズナーの実子)。このほか信者たちにヘンリー・バーグマン、モンタ・ベル(のちの有名監督)も加わって、撮影はロリー・トザロー。なお、映画でのチャップリンの説教の巨人ゴリアテとダビデの争いを、チャップリンが見事なマイムで見せ、教会の信者たちを唖然とさせ、1人大拍手したのがあの悪童坊やだけだった。チャップリン全作品中でのとくに名作の1本だ。
(解説 淀川長治)
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