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ラストエンペラー/オリジナル全長版のtubameのレビュー・感想・評価

4.5
毎年8月はなにかしら戦争が絡む映画を観ることにしていて、今年はBSで放送されたこちらをチョイス。ずっと観たかったのでちょうど良かった。


率直な感想としては、観れて良かったな!と。開始数分で圧倒的なリアリティと画面に映るあまりの作り込みの凄さにこれは尋常ではないと居ずまいを正して鑑賞したが、最後の最後までその印象が変わることはなかった。本物感溢れる衣装・膨大な数のエキストラ...予算も時間もとんでもなくかかっていることがひと目で分かる。それでいてそのことを特に誇示しないような器の大きさがあり、物語に静謐な空気がピンと張り詰めている冴えた様子がとても好き。

3歳で皇帝に即位して外界を知らぬまま紫禁城で育つも時勢によりそこから追放の身に。夢を捨てられず、利用されていると分かっていながら満州国の皇帝となった溥儀の半生を描く物語。
...というあらすじも不要なくらいの有名作。溥儀については文字通りラストエンペラーということと、NHKの「映像の世紀」で得た幾ばくかの知識しかなく、もう全て興味深いことばかりだった。
華やかだけど隔絶された仮初めの桃源郷で育った少年期も、外界に出て野心に燃える日々も、常にどこか孤独と寂しい空気に満ちていて胸が苦しくなる。
抗うことの出来ない運命の濁流にただただのまれていく人生に、雄大なのに儚さが漂う坂本龍一作曲のメインテーマがよく映える。


言語が全編英語であることが残念と言えば残念なのだけど、フランス・イギリス・中国の合作なので色々致し方ない部分もあったのかなと想像する。ただそれは作品としての素晴らしさをなんら損ねるものではないし、大々的な紫禁城でのロケや終盤の文化大革命に纏わる描写などは中国からよくOKでたねという印象(まあ史実はもっとエグいけれど...)。各所の力を結集して完成した傑作なのだろうな。時代が変われば人の運命なんてあっさり変わってしまうことが残酷なまでに繰り返し描かれていた。


今回観たのはオリジナル全長版というやつでかなり長いのだけど、退屈に感じる瞬間が全くない密度だった。
(通常版は大分カットしているらしく、受ける雰囲気が全然違うらしいので未見の方は全長版がオススメ)
自分の言葉では素晴らしさを全然言語化出来ないのだけど、本当に観て良かったとつくづく思った。
ラストシーンが幻想的で好き。あれは溥儀の幻だったのかなあ...
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