ワンコ

猿の惑星のワンコのレビュー・感想・評価

猿の惑星(1968年製作の映画)
5.0
【絶望/お前が人類だから】

SFの突飛な設定や特殊メイク、アクションも含めたストーリー展開に注目が集まりがちだと思うが、この「猿の惑星」は俯瞰して人間社会を理解させようとした秀逸な作品だと思う。

今更ながらだけれども「光の速度で移動すれば時間は遅れる」という説明が冒頭にあったことに感心した。

この作品はアポロ11号が初の月面着陸を成功させた1969年より一年前に公開された作品だ。

誰もが知っての通り、宇宙船が不時着したのは2000年後の地球という設定なのだけれども、当初はそうとは知らないクルーが「ここで生きていくんだ」と楽観的なところは、ちょっと、ええっ!?って驚いた😜

ただ、1960年代に、それもアポロ月面着陸の前に、人類の愚かさによって人間の文明社会が滅ぶことを示唆する作品が世に出ていたというのはやはり特筆すべきことだ。

原爆、水爆、核兵器保有国の拡散、そして、中東紛争やベトナム戦争など紛争が絶えない当時の世界を憂う雰囲気が既にあったということだろう。

人間を動物や奴隷のように扱う猿。
猿は武器を振りかざし世界を支配しようとしている現代の人間のメタファーだ。

結局、支配従属関係の上に位置するものは人間だろうと猿だろうと同じだと、人間が唯一知的な生き物だと自惚れようと、文明社会が滅んでしまえば、弱肉強食のセオリーに従わざるを得ないのだと伝えようとしているようにも感じる。

それに、支配する側は、従属する側に優れた指導者が現れれば、それを怖れ、亡き者にしようと試み、一層の締め付けを行うのだと、これは欧米列強を猿に、旧植民地を人間に置き換えたレトリックでもあるように思える。

また、最後の場面は、滅んでしまった人間の文明を見せると同時に、今は支配される立場でも昔は文明の中心だったことはあるのだと歴史の皮肉を示唆しているようには考えられないだろうか。

そして、またいつか、支配地域と従属地域が逆転するかもしれない。

猿の支配、人間の反抗と、人間の視点を従属する側に設定したことも、人々に思慮を促しているように思える。

そして、今更ながらだが、紛争、温暖化…と、人類には絶望的な未来しか待っていないのかもしれない。

「お前が人類だからだ」
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