LEONkei

秘密の子供のLEONkeiのレビュー・感想・評価

秘密の子供(1979年製作の映画)
3.6
ヌーヴェル・ヴァーグの精神を継承し、ファクトリー(アンディ・ウォーホル)で様々な人々との出会いに刺激を受けたフィリップ・ガレル。

観ていて完全にそれが分かる映像描写は、良い意味で〝雑〟の極みを堪能できる…〝雑の美〟とでも言えば良いのか。

物語は簡単に言えば男女の恋愛映画だが、退廃的でドップリ鬱に浸かってしまう。
幼い息子〝スワン〟を持つ〝エリー〟役は、ゴダールの女神〝アンヌ・ヴィアゼムスキー〟の気怠く現実逃避したような姿は痛々しくも見える。

フィリップ・ガレルが妻であったヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代の〝ニコ〟と、この作品が離婚前後の製作なので映画の中の〝エリー〟と〝ニコ〟を重ね合わせたに違いない。

光と影の陰影表現がモノクロ映画の面白さを方向性づけるが、この映画の印象は〝灰色に近い黒〟。

ピンぼけやフィルムの粗さを活かしながら1カット1カットを撮り、後からカットに合わせセリフを乗せたイメージすらする。

多用する逆光を利用し登場人物の顔や姿を消し去るが、不思議と見えない表情が伝わってくる。

それは音の使い方にも言え、例えばシーンによって背景の音を遮断する無音状態は非現実的な空間を演出か。

社会の中に自身が存在していないかのように、周囲の音すら聞こえないほど社会から断絶した暗闇に沈むココロ。

フィリップ・ガレルの何者にも支配され無いアナキズム的な作風は、あらゆる創造者にとって励みにもなる。

最も好きなシーンはカフェの外からカメラを窓ガラス越しに覗かせ、店内の恋人ふたりを捉える。
彼女がひとり店の外に出た時に、彼女の歩く背中が窓ガラスに映り店内の彼と重なるシーン。

物語は淡々と進み観る人によっては眠くなり好みが分かれる映画でしょうが、内容はともかく自分はこの映像描写としての〝雑の美〟が好きです..★.
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