akrutm

キングス&クイーンのakrutmのレビュー・感想・評価

キングス&クイーン(2004年製作の映画)
4.5
パリで画廊を営み三度目の結婚間近の女性ノラと、通報によって精神病院に強制的に入院させられたノラの前夫イスマエルという対照的な男女を描いた、アルノー・デプレシャン監督のドラマ映画。

劇伴としてムーン・リバーが流れ、主人公の女性ノラが仕事に恋に順調である様子が映し出される映画の冒頭を見る限りではお洒落な恋愛映画に見えるが、実際の内容は大きく異なっている。映画が進むにつれて、精神病院に入院しているイスマエルは実は心優しい常人であるのに対して、一人息子の父親で出生前に死んでしまった男性との関係の真相とか、ノラの父親が残した遺作エッセイに書かれている内容など、ノラの自己中心的で狂人的な側面が少しづつ顕になっていくのである。つまりは、人間はだれしも狂人的な側面があるのであり、言い方を換えると、狂人と常人は紙一重なのである。

そんな人間の本質を、小説的な深みのある描写によって喜劇と悲劇を交えて描いた本作は、間違いなくアルノー・デプレシャン監督の代表作と言える珠玉の作品であるし、実際にフランス国内でも国際的にも高く評価されている。もちろん、デプレシャン監督の『そして僕は恋をする』でも共演したエマニュエル・ドゥヴォスとマチュー・アマルリックの演技も文句なしの出来である。その他にもサブテーマではあるが、養子の話を通じて親子(や家族)関係とはいったい何かも考えさせられる。

なお、DVDに収録されている(日本での)予告編には、「キャリアウーマンと不器用な男たちが織り成す上質な大人のラブストーリー」とか「これが私の、新しいシアワセ」という、映画の内容を全く無視した宣伝文句が並んでいる。こんなウソで堂々と宣伝するのもどうかしているが、そもそもウソであることを自覚しているかも怪しい。こういう宣伝に引っ張られて鑑賞した結果、フランス映画ってよく分からないという感想を吐かれても、困っちゃうんだよなあ。
akrutm

akrutm