櫻イミト

引き裂かれた女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

引き裂かれた女(2007年製作の映画)
3.5
シャブロル監督が実際にあった女性タレント絡みの殺人事件に着想を得た犯罪メロドラマ。フライシャー監督「夢去りぬ」(1955)のリメイク。

現代のパリ。テレビお天気キャスターのガブリエル(リュディヴィーヌ・サニエ)は、30歳以上離れた大物中年作家シャルルに見染められ不倫愛に落ちる。一方、我が儘な御曹子ポールも彼女にぞっこんでしつこく付きまとっていた。この三角関係がやがて悲劇を引き起こす。。。

フランス映画らしいドロドロの犯罪メロドラマを久々に味わった。社会的地位の高い大物作家が陰の変態性を自己肯定し業界のステイタスにさえしているのがおぞましく興味深かった。

ベースとなった実話は1906年にニューヨークで起きた「スタンフォード・ホワイト殺害事件」。リメイク元である「夢去りぬ」は事件と同じ時代設定だが、本作は現代の芸能マスコミ業界を舞台にしたことでオリジナリティの強い一本になっている。

女性をオトすための手練手管を心得た中年作家と、打算なく恋に落ちていくお天気キャスター。そして金にモノを言わせ欲しいものは必ず手に入れようとする若き御曹司。それぞれの俳優がとても役にハマっていて、心情描写も繊細かつ巧妙なので、華やかな業界のリアルな裏側を覗いているようだった。構図は有りがちな不倫殺人なのだが、当事者がブルジョア有名人たちなのが本作のミソ。事件は国内的なスキャンダルとなり、美しく才能あるヒロインは罪もないのに人生ごと落ちてゆく。華やかさが仇となるところにシャブロル監督らしい皮肉を感じた。

ラストシーンは実話ではなく境遇を示したもので、そのシチュエーションはリメイク元「夢去りぬ」へのオマージュとなっていた。全体的に本作の方がえげつなく刺激的な演出で面白味は高かったと思う。
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