映画ネズミ

サウンド・オブ・サンダーの映画ネズミのレビュー・感想・評価

サウンド・オブ・サンダー(2004年製作の映画)
4.5
 どうも、映画ネズミです。この映画への投稿は初めてです。『サウンド・オブ・サンダー』は、私ネズミがどうしても嫌いといえない映画です。長文ですが、投稿に慣れていないので、お許しください。

 スゲーざっくり言うと、「近未来、白亜紀にタイムトラベルして恐竜を光線銃で撃って快感!な感じのツアーが金持ちの間で流行っていたけど、観光会社がいろいろずさんなせいでツアーでトラブルが起こって、人類が滅ぶのか滅ばないのか!?」みたいな話です。

この映画はこんな人に向いています:
① 将来映画を作りたい人(これぞ職人芸! 参考になるかもです)
② ピーター・ハイアムズ監督が好きな人(はーい!)
③ ベン・キングズレーを見たい人
④ ☆家計のやりくりする人を見て共感する人☆

この映画はこんな人には不向きです:
① CGは『ジュラシック・パーク』レベルでないと満足できない人
② タイムトラベル物といえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』な人
③ 「映画くらい収支を気にしてほしくない!」と思う人

 突然ですが、ピーター・ハイアムズが大好きです。『カプリコン・1』(77)とか『アウトランド』(81)とか『タイムコップ』(94)とか、割と80~90年代に活躍した監督さんという印象ですが、ジョン・カーペンター師と共に、少ない予算で私の厨二心を満たしてくれた監督さんです。

 両者とも、監督、製作業以外の才能も持ち合わせている職人監督です。
両者とも脚本を書きますし、カーペンター師は音楽を担当し、ハイアムズはカメラを回します(撮影監督)。

 しかし、『ハロウィン』『ニューヨーク1997』をはじめカルト作も多く、人気の高いカーペンター師と違い、ハイアムズの作品は、いろいろ恵まれないことも多いです。

例えば、『2010年』(84)。スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(68)の続編です。『2001年』は映画史に残る不朽の名作として知られていますが、『2001年』が好きな人は、これに続きなんか作れないと思うでしょうし、『2001年』が嫌いな人は、もうこれ以上みたくないと思うでしょうし、二重の意味で見てくれる人の少ない映画かもしれません。でもメチャクチャいい映画です! 最後のHALのメッセージとか、切ないけど心が温まります。

例えば、『エンド・オブ・デイズ』(99)。シュワルツェネッガーの代表作ですが、製作途中でトラブルが多発、前の監督が降板してハイアムズが抜擢され、何とか完成しましたが、アメリカ国内の興業では制作費を回収できず。内容的な評価も決してよくはありませんでした。シュワとサタンのバトルシーンとかあって、これも面白いですよ。

 そして、本作『サウンド・オブ・サンダー』です。詳しい方はご存知の通り、本作は8000万ドル(約100億円)の大予算で、大作映画として制作が進んでいました。しかし、チェコで撮影中、セットが水害で全滅、出資していたフランチャイズ・ピクチャーズが制作途中に倒産と、通常なら誰もが「オワタ……」となる状況で、ハイアムズが何とかスズメの涙くらいの追加出資をかき集めて最後まで撮り切り、必死の思いで公開してみたら、全世界興収1100万ドル(約12億円)の大コケ。「踏んだり蹴ったり」とはこのことです。

 実は同じ時期に、『エクソシスト ビギニング』(04)がありました。この映画、もとは『フレンチ・コネクション2』のジョン・フランケンハイマー監督、『96時間』のリーアム・ニーソン主演で進んでいました。しかし、制作途中でフランケンハイマーが急死、『タクシードライバー』のポール・シュレイダー監督が抜擢されました。その後、この完成版を見た制作会社はなぜか「こんなもん公開できねー!」といってポール・シュレイダーを降板させ、リーアム・ニーソンもスケジュールの都合で降板してしまい……と監督、キャストが完全に変わり、『クリフハンガー』のレニー・ハーリン監督、『メランコリア』のステラン・スカルスガルド主演で何とか完成しました。結局、全世界興収でも制作費を回収できませんでしたが、レニー・ハーリン十八番のアクションシーンをふんだんに盛り込んだ、なんとなく派手なエクソシストになりました。これはこれで賑やかだったので、一部のファンに歓迎されています。

 それだけに……それだけに! 本作の大コケが悔やまれる。悔やまれるんですよ! でも、実はこの映画、基本的な映画文法は押さえつつ、予算を節約しているんです。

 まず、タイトルが出る前に作品世界の簡単な説明をテロップでしてしまう。これで、細かい未来世界描写の積み重ねは要らない。

 次に、恐竜と遭遇する最初の見せ場(ここからして、いただけないという人は多いかと思いますが)。フルCGのアロサウルスを退治する場面。ここで、作品世界の基本設定をさらに説明する(この場面、やけに軽いんですが、仕方ないですね)。恐竜見せて賑やかにもなる。

 そして、中盤でトラブルが起こりますが、それが次第に「実は思っていたよりもっと深刻だった」ということが、世界の何気ない変化で分かってくるあたりもうまいです。道を歩いている人の服装を長袖から半袖に変えて、草をちょっと壁にくっつけるだけですから、お金もかかりません。

 さらに、この映画で秀逸な「タイム・ウェイブ」、つまり世界が変わる時間の波の表現を取り入れて編集点をつくり、セットに小道具をつけ足していくだけで世界の決定的な変化を表現する。

 終盤以降は、時空の歪みが原因で発生したモンスターとの戦いがメインになりますが、そのモンスターを闇夜に隠して中々見せないで、CGのアラがばれないようにしていますし、襲ってくるタイミングは意表をついています。カーチェイスもありますし、『ジョーズ』みたいに水中から襲ってくる場面もあります。

 スタジオがぽしゃって金がないから、もう大作映画にはできない。じゃあB級だと割り切ってやれることをやろう。そんな感じが伝わってきます。ただ、(もっとお金があればという条件付きですが)大作映画でも通用する映画文法は、きっちり押さえています。さすが職人監督ハイアムズ。何か「家計のやりくり」を見ているようです。

原作はレイ・ブラッドベリ。映画化作品としてはトリュフォーの『華氏451』(66)が有名ですね。

 キャストには、意外と有名な人もいますよ。主人公とタッグを組むソニア・ランド博士には、キャサリン・マコーマック。『28週後・・・』のお母さんです。医療担当の男にはデヴィッド・オイェロウォ。『アウトロー』(12)の刑事でした。

 そして、金に汚い社長役は、ベン・キングズレー。いわずと知れた名優ですね。この人、『ガンジー』『シンドラーのリスト』みたいなしっとりした映画に出るかと思えば、『スピーシーズ』(95)みたいな変な映画(褒めてます)にも出てくれている偉い俳優さんです。最近では『アイアンマン3』(13)とかナイトミュージアムの3作目とか子供も見れる映画に出て、茶目っ気を見せてくれています。本作でも絶妙に器の小さい人間を見事に演じていますね。大好きです。

 ちなみに、本作が大コケした後、ハイアムズはマイケル・ダグラスを迎え、『ダウト~偽りの代償~』(09)を監督しますが、これも2500万ドルの製作費に対し、アメリカ国内の興収3万ドルとまたしても大敗。元・木曜洋画の星ジャン=クロード・ヴァン・ダムとまたタッグを組み『Enemies Closer』(13)を監督。でも、これはアメリカでも限定公開になり、ほとんどビデオスルーになってしまいました。以後、映画作品がありません! もう一度ハイアムズの映画を見たい! 誰か、彼に脚本と予算とスタッフとキャストを(頼むもん多すぎ)!

 というわけで、紆余曲折を経てやっと日の目を見たのに見向きもされなかった不運な映画、『サウンド・オブ・サンダー』。映画製作を志す方は、これを見て、脚本の穴はどこで、それを名匠の職人芸でどこまでカバーできているのか、研究してみてはいかがでしょうか?

この映画が好きな人におすすめ:
① タイムトラベル系:『LOOPER/ルーパー』
② 恐竜出てくる系:『ジュラシック・ワールド』
③ シュレイダー版「エクソシスト ビギニング」:『ドミニオン』(05)
(※でも、日本ではDVD、BDともに販売していないそうです……!)
映画ネズミ

映画ネズミ