海

ファニーとアレクサンデルの海のレビュー・感想・評価

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)
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あなたをさらっていった幾重もの眠気の波が、わたしの耳もとに這いより、瞼や頬をすべり落ち、あたまの奥にまで、やがて届きはじめる。風と風とがもつれあい、窓を外側から叩くけれど、その間隔もすこしずつ意味をうしなっていく。怖さは、一瞬で、だれもを諦念させるような夜の重さの与える、死んだっていい、というありえないくらいの安堵によって、食いころされ、わたしたちを何度でもゼロに戻す。幼い頃に流した涙のあとは、見えなくても、大人のその頬に残っているんだろうか。眠ることを拒んだ幼いあなたと、眠ることが上手じゃない今のあなたの、両方をわたしはおもった。もしもこの世界が、すべてあなたの夢で、あなたが目覚めたそのとき、夢も終わってしまうのだとしても、あなたが目覚めるその瞬間まで、たえず夜と朝をくりかえし世界を閉じないでいてあげられる神さまになりたかった。あなたが眠っていたいあいだ、ずっと暗やみをつくり、あなたが眠りたくないあいだ、ずっと照らしている神さまになりたかった。もしも翼があったら、たとえそれで飛べなくとも、きっと悲しくもつらくもないよ、あなたを今よりつよく抱きしめてあげられるはずだから。何度もおもいえがいてきた夜の亡霊、寒い日の光り、背中の天使、そのありさまが、あなたをいつまでもいつまでも揺すりつづけるだろう。ふくらんだり、縮んだりする暗やみの中で、あなたは、常に愛されているの。感覚にも知性にもつかむことのできない事象は、そのときを待たずとも、遠くへ旅をせずとも、あなたのいちばん近くにある。あなたがずっと暗やみの中にみていたもの。静かな静かな海、その先に、ひたすらに無垢な、光の世界がある。
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