鰯

ファニーとアレクサンデルの鰯のレビュー・感想・評価

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)
5.0
悩むより楽しめ

華やかなエクダール家の子供、ファニーとアレクサンデルが眩いクリスマスから2年間の間に経験する様々な出来事を映し出す。

311分という長さに尻込みしていましたが、ついに意を決して観たところ、流石の大傑作でした。

何だかどこか欠けている男と社会(家庭)を支える女性が見事に絡み合って本当にどのシーンも素晴らしい。エクダール家のヘレナの息子3人はデコボコトリオで面白い。非常に優しい人格者の長男オスカルは、舞台に立つと大根演技で笑ってしまう。次男のカールは、アルコール依存症でドイツ人の妻には罵声を浴びせ続ける(それでいて、急に思い出の一曲を歌えなどと言い出す)。三男のグスタフは妻の優しさに感けて、メイドのマイに執心。などなど。
一家を守るヘレナを筆頭に、女性陣は男性に依存せぬよう凛としていて素晴らしい。依存して失敗しても、自身の手で解決を試みる。「男性の手を借りて」、みたいなのが通用しない世界観はかなり痛快でした。

物語の中心となるファニーとアレクサンデルがじーっと大人を見つめる時の目がとっても良かった。強くて真っ直ぐで怖さすら感じる目。ジッと見つめられたら、たじろいでしまいそうです。

物語はとっても壮大なのに、決して大雑把でなく画面の端々まで作り込まれている。それは美術とかだけでなく、メイド同士の一瞬の会話だったり、華やかな食事の中で話されている「しょうもない」お話だったり。個人的には、忠実に仕えている(と思われる)メイドたちが時折見せる不満がおかしくてたまりませんでした。単に深いドラマというだけでなく、すごく笑えるのがいいところ。

ベルイマンの映画は数本しか見ていませんが、少し不思議な出来事が挿入されるのも彼のスタイルなんでしょうか(神という存在を問い続けていたようですが)。しょっぱなから死神が現れたり、頻繁に父親が霊として登場したりと、アレクサンデル少年にとってはトラウマ必至の出来事が続出。それでもファンタジーっぽくならず、あくまで子供の成長過程で経験した出来事として自然に描かれているようなバランス感覚もありました。

ラストまで見たときには、「もう終わってしまうのか」という感覚に包まれる体験でした。お尻は疲れました
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