エイデン

叫のエイデンのレビュー・感想・評価

(2006年製作の映画)
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大きな地震で目を覚ました刑事 吉岡は、殺人の通報を受けて東京湾に面した埋立地へ向かう
被害者は赤い服を着た女性で、溜まった海水に顔を付けた状態で発見され、何者かによって溺死させられてたと見られていた
そこはマンション建設のための埋立てを行っている最中で、殺人現場は今朝の地震による液状化現象で海水が溢れた場所
現場を眺めていた吉岡は、ふと近くの水たまりの中にボタンが落ちているのが目に入る
自宅へ帰った吉岡は、あのボタンに見覚えがあるような気がしてクローゼットを漁ってみると、自分が同じボタンの付いた古いコートを持っていたことに気が付く
しかもコートのボタンは1つ無くなっており、恋人の春江に確認してみるも、何故無くなっているのかはわからなかった
その夜 吉岡は1人で現場へ戻り、落ちていたボタンを回収していると、女性の悲鳴が耳に入るが、そこには誰の姿も無かった
翌朝 吉岡はボタンを鑑識に回していると、検死の結果 “F18号”と名付けられた被害者の爪に被害者以外の人物が残した指紋があると報告を受ける
データベースでそれを照合してみると、指紋の持ち主は吉岡だったと判明
手袋を着けずに被害者に触ったのではと同僚の宮地に注意されるも、吉岡にはそんな覚えは全く無く不審に思う
一方 医師の佐久間は問題を抱える高校生の息子 勇介の訪問を受け、先輩にしている借金50万を工面してほしいと頼まれる
悪びれもせずそんなことを言う息子をいい加減 疎ましく思っていた佐久間は、その帰り道 人気の無い埋立地に勇介を連れて行くと、薬物で自由を奪い、溜まっていた海水を使って溺死させてしまう
その事件の通報を受けた吉岡は、F18号の事件と同じ溜まった海水を使う手口から連続殺人の線もあると見て捜査を始め、職場を欠勤し連絡が取れないという被害者の父 佐久間を怪しむ
またF18号の手首に、締められた跡と黄色い塗料が付着していることも発見され、何か黄色いコードのようなものが凶器に使われたと判明
その後 吉岡が再度現場を訪れると、偶然目に入った水たまりからビニール袋に包まれた黄色いコードが見つかる
更にその様子を眺めていた不審な人物が佐久間であるとわかり、吉岡は彼を追いかけるが興奮した佐久間はビルから飛び降りてしまう
怪我を負った佐久間に自分をハメようとしているのかと憤る吉岡だったが、彼は事情聴取で息子を殺したことを認めたものの、F18号については何も知らないと供述する
更に事情聴取の最中、佐久間は部屋の隅に人が立っていると言い出し、突然 錯乱してしまう
不可解なことが連続する中、同僚の宮地から様々な証拠が吉岡が犯人だと指し示していると疑われたばかりか、F18号と同じ赤い服の女性の幽霊まで見るようになり、次第に吉岡は追い詰められていく



Jホラーシアターシリーズ第3弾

ホラーと銘打ちつつも黒沢清監督なので独特な物語が展開される
比重としてはかなりミステリー調
あたかも自分が犯人かのような証拠が出てくる連続した殺人事件と、行く先々で現れる幽霊という謎に付き纏われ、深い闇の中へ落ちていく

全体的な不穏さとざらついた画、そして物語を引っ張る役所広司の演技力が噛み合っているのはかなり良い
対して海外ホラーのような大々的な怖さを追求しているわけでなく、あくまでじっとりと不気味な純ジャパニーズ・ホラーといった作品なので、物足りないという人はいるかもしれない

ただまあ個人的には好きな部類で、前述のミステリー調な物語と対照的に、人間の持つ根源的な不条理さに触れるような終盤は良い
「私は死んだ。だから、みんなも死んでください・・・」なんてキャッチコピーとかゾクゾクする
『神曲』でダンテ・アリギエーリは、「地獄の最も深きところは、倫理の危機において中立を標榜する者のために用意されている」と語ったけど、恨みを抱いて幽霊となった人が、自分を救わなかった世界を恨まない理由は無いなと妙に納得してしまう
我々も知らない間に、誰かの叫を聴いているのかもしれない
エイデン

エイデン