rio0523

叫のrio0523のレビュー・感想・評価

(2006年製作の映画)
4.3
「わたしには選択しようがなかった。ーわたしは自分自身を恐る。わたしは自分で自分を追い立てる。」(フリッツラング監督『M』より)
『cure』やフリッツラング『M』のような、自分でもコントロールできない自身の深層心理が表層し追い詰められていく様、また同時に描かれる世相。1920年代ドイツの経済破綻そんな時代、民衆の中に溜まるフラストレーションと乾き褪せた都市の世相を同時に映し出し傑作サスペンス映画『M』を作り出したが今作はこれに近い。過去作『回路』でも急激な技術進歩(インターネット)による疑念を描いていた黒沢清監督だが、今作は急進的に開発された都市とその結果色褪せた街並みの様子はとても印象に残る。埋め立てた土地からは海水が溢れ出す。それは一方的に開発されたが故に見えない、忘れられた民衆の想いや発生したフラストレーションを表しているように思える。開発されたにも関わらず廃れたように見える街並みの映像と自分自身では押し殺し生きていると思っている奥深いところにあるフラストレーション、どちらもコントロールできない力(都市ならば地震)によって溢れ出ていく。殺人の伝播という点では『cure』に似た部分もあるものの、都市性を強く引き出しそこから急進的な開発への警鐘映画としてとても面白かった。
少し時代は違うが押井守監督の『パトレーバー』でも似たようなテーマを扱っていた。今となっては高いビルが立ち並ぶ街は当然になっているが故にその風景に対して冷徹さ淡白さが映像、映画の物語としてあまり描かれているイメージはないため一つの時代性が出た映画だったと思う。
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