津軽系こけし

コララインとボタンの魔女の津軽系こけしのレビュー・感想・評価

コララインとボタンの魔女(2009年製作の映画)
4.6
退屈な世界に花を添えよう


【ヘンリーセリックはボタンの夢を観る】

「ナイトメアビフォアクリスマス」をはじめ、近代ストップモーションアニメの先駆者たるヘンリーセリック氏が手がける3D長編作品。そして彼のキャリア上では、今のところ最新の作品である。
ヘンリーは、大学時代に科学を専攻していたこともあってか、自分のアイデアに対する分析心が強く、しかもそれを切り捨てない童心も持ち合わせている。そこから繰り出される類稀な表現力と、ビジョンに対する執着は圧倒的である。その実力は、今作の美術を見れば一目瞭然である。

【視覚に情緒が飲み込まれる】

ドイツ表現主義を基盤にした世界観は、暗くありつつも子供向けのような可愛らしさを湛えている。ヘンリーが長編映画にて監督・脚本を両方兼ねるのは今作が初めてであり、それ故に「コラライン」からは彼の人格が鮮度100%に受け取れるようだ。

長編ストップモーションの前作にあたる「ジャイアントピーチ」においては、主人公が幻想の世界に救いを見出すわけだが、「コラライン」はその反対に現実の世界を救いとしている。ここには彼の理性的な人格の片鱗が映されているようである。そこから考えるとコララインというキャラクターはまさにヘンリーの人格を投影した存在とも解釈できる。

【才能とはこういうもの】

黙らされる程の視覚表現に圧倒し、私のような頑固者が赤子同然にあしらわれてしまった。この作品を前にしては、どんな腐れ外道であれ童心との対話を余儀なくされるだろう。
ただ、スマートがすぎる故に淡白すぎる印象も抱かなくもない。ヘンリーの真摯な表現姿勢は伝わるし、彼の才能には感服していた……それだけにエネルギーが足りない、そして無駄が足りないのだ。これは私の感性との相談である。
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