地底獣国

砂の器の地底獣国のレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
3.8
映画力高っ‼︎!

原作未読なんでどのぐらい丁寧に捜査過程を書いてあるのか存じませんが、参考にと目を通した春日太一氏の本によると原作にも結構ガバガバな展開があって、それがそのままシナリオに残っている事を黒澤明氏に指摘され直すように言われたとか(でも無視した)で、実際ストーリーと台詞だけを追って行くとかなり破綻してます。

観客には殺人事件の犯人が早々に明かされるのでWHOではなくWHYがポイントになり、それについて丹波哲郎扮する警部補が語る場面と、加藤剛演じる作曲家の新曲演奏会、加藤の少年時代パートが交錯してクライマックスを構成するんですが。

警部補が逮捕状請求するにあたっての説明が「いやアンタ、結構話飛んでるし想像で補ってる部分多すぎ‼︎」なのですがそれを捩じ伏せるのが、本作の「肝」と橋本忍氏が見定めた(原作では数行程度の)故郷を石もて追われた父子の旅というわけです。

実に1年がかりであちこちロケして撮った四季折々の情景の中を彷徨する父子の映像を橋本氏自ら編集して10分に詰め、音楽の効果を最大限発揮すべくセリフもカットしたという入魂のシークエンスはやはり圧巻、それに丹波哲郎の顔面力と演説力が加わるので無茶な説明も「あっハイ」と飲み込んでしまうんですねぇ。

更に言えばキーパーソンの1人である警官を演じる緒形拳、「勤勉実直な人物」ではあるがそれが独善的な行動に繋がり、悲劇の引き金となるという図式にガッチリハマっていて、この二人そして流浪の旅をする父子のキャスティングも成功の大きな要因だったかと。

というわけで無理筋なストーリーを演出、編集、音楽、演者によって凌駕したというのが「映画力」の高さの現れだと勝手に思っとります。

あと個人的には前半の(殺人事件の捜査にも関わらず妙に)のんびりした空気の漂う出張のシーンも、新幹線が東海道しか無かった時代の旅情といった趣があって好みでした。そういう呑気さを許せてしまうのも丹波哲郎力と申せましょうか。
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