MOCO

砂の器のMOCOのレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
4.5
「『あなたの息子は、見所のある頭のいい子だから、きっとどこかで立派に成長しているだろう、そしてそのうちに必ず、必ずきっと会いに来るに相違ない』繰り返し繰り返し、繰り返し繰り返し・・・」

 この映画のタイトルの「砂の器」がスクリーンに登場するのは、巡礼の旅の途中の本浦秀夫が一人夕暮れの海辺で砂の器を作り木の板に並べるオープニングのシーン、本編で唐突に流れる川辺のシーンです。一生懸命並べた「砂の器」は風にさらされ、ぼろぼろと崩れていく。ただそれだけの映像です。
 記憶では原作にこのタイトルに関する記述は一切なかったと思います・・・。
 砂で作った器は「偽りの器」存続し続ける事は出来ないということなのでしょうか?。「砂の器」はこの物語の犯人の「偽りの人生」そのものなのです。

 原作の犯人は捜査を混乱させるためアリバイ工作に利用した知人を殺すなど、同情の余地がない凶悪知能犯のためタイトルに違和感はないのですが、映画では苦難の巡礼に映像時間を割くため、犯人への同情が強くなってしまいタイトルが今一つしっくりしない気がします。したがって観賞後の印象と読後の印象は全く一致しません。

 冒頭の東北での聞き込みで証言される不審な男は、小説では重要なキーマン、アリバイ作りに利用され殺されてしまう男なのですが上映時間の限界なのでしょう、映画ではそのあとは全く触れられていません。
 それでも、紙吹雪の女、出雲でも使われる東北弁、かめだに結び付く亀嵩、戦災による本籍復活、突然の旅行先変更、連日訪れた映画館、恨みをかうはずない被害者など「そうだったのか!」という場面は何度も訪れ、漠然と犯人を探す前半と、逮捕状を請求して捜査を回顧しながら、犯人の経歴と動機に触れる後半では作品のテンポが変わりぐいぐい引き込まれまる構成の上手さが光ります。

「『こんな顔の人は知らない』・・・では、見たことも会ったこともないのですね。それじゃぁこの人によく似たような人、例えばあなたがよくご存知で6つか7つの子供をこの青年にしてみたとしたら、それでも心当たりありがありませんか?」今西 栄太郎に写真を見せられた本浦千代吉は狼狽し奇声を発しながら愛する息子を守ろうと否定し続けます(原作ではすでに千代吉は存命していません)。

 初めて観たのは中学生の時の劇場公開でした。久々の鑑賞も映画館になりました。
 この映画の丹波哲郎さんの演技は実に魅力的です。
 島田洋子さんのはかなげな美しさも、
 加藤嘉さんの味のある「しらねぇ」のセリフも、
 緒形拳さんの駐在所員の躍動感も、
 森田健作さんの過剰?な演技も・・・みんな記憶の通り健在でした。

 多くの映画関係者・映画ファンが日本映画のベスト10にランクする映画「宿命」で「ピアノと管弦楽のための組曲 宿命」をバックに傷ついた親子が日本の四季を歩くシーンは日本映画の至宝と言っても過言では有りません。
 美しいテーマ曲「ピアノと管弦楽のための組曲 宿命」を作曲しピアノ演奏しているのは、作曲家・ジャズピアニストの菅野 光亮氏。
「ピアノと管弦楽のための組曲 宿命」無くしては「砂の器」の高評価はあり得ず、あまり知られてはいない菅野 光亮氏の功績こそ大きいのです。

 作品に感動した上、音楽の素晴らしさに、LPレコードも買い、原作も読んだ思い出の邦画、原作とはスポットの当て方が違うのですが、橋本忍氏山田洋次氏共同脚本だから成し得た人間性を前面に出した重量感のある作品です。

 遠い昔、3つ年上の親戚のお兄ちゃんが劇場で観たこの映画の話をしてくれたのがこの映画を観るきっかけになったのも良い想い出です。
MOCO

MOCO