菫

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いの菫のレビュー・感想・評価

4.0

本質は決して同時多発テロ事件じゃない。大切な誰かを何の前触れもなく失った人たちの生き方をテーマにした普遍的な話だった。壮大でドラマチックなプロットだけど、誰にでも通ずる。

オスカーが父親の死を乗り越えられないのには、とある重大な秘密が関係していて…… それを誰にも話せずに、ずっと独りで抱え込んでいたと知った時、もう胸が張り裂けそうになった。しかし父親への計り知れない無念と罪悪感は、いつの間にかオスカーの冒険の原動力へと姿を変えていたんだね。喪失は却って人を成長させたりする、ああ憎いなあ。

父トーマスは死後も変わらずオスカーの背中を押し続け、トラウマや苦手なことを克服するキッカケを与え続けた。ニューヨークの喧騒へ連れていき、数多くのBlackさんに出会わせた。冒険を成し遂げ、成長した姿を直接お父さんに見せることはできなかった。だけど大丈夫。この世を去るずっと前から、お父さんはオスカーの可能性に気づいていたから。

悲しみに明け暮れ、息子に無関心になっているかに思われた母リンダは、実はオスカーの一番の理解者なのかもしれない。人の気持ちを理解するのが難しいオスカーも、最後にはお母さんと分かり合えて本当によかった。お父さんがいなくても、きっと二人でやっていけるよ。
菫