Eyesworth

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのEyesworthのレビュー・感想・評価

5.0
【"あれから"父と子の調査探検の続き】

スティーブン・ダルドリー監督が9.11テロに巻き込まれた家族を描いたヒューマン作品。主演はトム・ハンクス。

〈あらすじ〉
アメリカの9.11同時多発テロで世界貿易センタービルにて被害者となった父トーマス・シェル(トム・ハンクス)とその家族のお話。
10才の息子のオスカー・シェル(トーマス・ホーン)は大好きだった父の死後1年はその死を受け止めきれず、寂しく空虚な生活を送っていたが、ある日長らく立ち入ってなかった父の部屋で「BLACK」と書かれた封筒と謎の鍵を見つける。この鍵を父を解く鍵だと思った彼は"調査探検"という生前の父とも行っていた謎解きのようなアドベンチャーを始める。しかし、ニューヨーク在住のBLACKという苗字の人を何百人と当たるも鍵穴のヒントすら見つかる気配もなく、難航する日々。幼い彼の脆い心は当然ヒビが入り始め、父との記憶も徐々に薄れていくが、そこで気づいた「ものすごくうるさくてありえないほど近い」存在。そして謎の鍵の真相…

〈所感〉
朧気ながら昔テレビで見てとても鮮烈で感動的なストーリーだったのを覚えていたため、この度Blu-rayで視聴。今見てもやはり善い作品は善く、以前は子供の視点でしか見れなかったが、親の目線から見るとまた違った感情が産まれてきて味のある映像体験ができた。トム・ハンクスは言わずもがなの泣かせ人だが、言葉を話すことができない間借り人を演じたマックス・フォン・シドーの存在感が際立っており、この物語のキーパーソンであるように感じた。彼にとってたどり着いた答えは当初望んだようなものではなかったかもしれないが、その過程で出会った個性豊かな大人達との交流は非常に得難い経験であり、何よりの勉強であり、父からの最後の贈り物だったのだろう。広い世界を知り、見聞を深め、少年自身が卵の中から外へ飛び出していくような成長を見せるお手本のようなビルディングストゥロマンである。
年に似合わず理屈屋で大人顔負けの発言が多い反面、何かと怖いものが多く傷つきやすい臆病で繊細な少年オスカーは、これまでは自分を守るために怖いものや知らない人には近付かないことが賢明だと考えていたのだが、この調査探検によって自分の知らない人と出会って会話をする、ということは相手との架け橋を繋ぐ行為であり、ひいては今は亡き大切な人との思い出を共有する重要な供養になることを理解したのではないか。これからもオスカーは、偉大な父の足跡とメッセージをつぶさに感じながら、独自の道を拓いていくのであろう、という計り知れない可能性をラストのブランコを漕ぐシーンから感じ取った。
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