安藤エヌ

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いの安藤エヌのレビュー・感想・評価

4.0
幼い少年の喪失と再起を描く映画、というと去年観た「怪物はささやく」を思い出すが、これは実際の事件である9.11同時多発テロ事件を題材にしているため現実味を強く感じた。

行動や言動にやや問題のある主人公のオスカーは、父親が亡くなった9.11以降、街の騒がしさや公共交通機関を利用して移動することに恐怖を覚える。9.11がそうであったように、いつどんなことが起こるか分からないからだ。
それでもオスカーは父親の遺した一本の鍵を握りしめ、その鍵の入る鍵穴を探し老若男女様々な人達に自らの脚を使い会いに行く。途中から旅に合流した祖母の部屋の間借り人(重要な人物なのだが、ネタバレになるので伏せておく)は、恐怖ゆえに制限されていたオスカーの行動を自分が同行することで穏やかに優しく切り拓いていく。
個人的にこの緩やかなシーンの運びが好きだ。人は困難や苦しみから再生する時、そばに誰かがいれば心強くなる。オスカーにもそんな存在が身近にいたことに喜ばしくなったし、彼にとって「ものすごくうるさくてありえないほど近い」存在が誰だったのかを知った時、そして彼のことを愛している人の視線になった時、熱い涙が止まらなくなる。

ヒューマンドラマ、また9.11を忘れてはならない出来事として伝えるため、その両方として観て良かったと思える作品だった。
安藤エヌ

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