KnightsofOdessa

カウチ・イン・ニューヨークのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[Uh-huh と Yes とオウム返し] 80点

仕事に疲れた精神科医ヘンリーがパリにいるダンサーのベアトリスと部屋を交換したら、結局同じことやってました…てへ(照)という感じの、脱ぎ散らかすわ食い散らかすわ置き散らかすわと人ん家を荒らしまくるジュリエット・ビノシュと、一々彼女の後ろを付いていく犬のエドガーが無限に可愛らしい映画。やって来る患者を"ソルニエ先生"として対応するベアトリスは、犬も懐いて患者も懐くという嬉しい状況の中、エセ精神科医として少しでも成長しようと"Uh-huh"と"Yes"と単語の鸚鵡返しだけで会話しようと足掻いてみたりと疑似ヘンリー生活を満喫する。それに対して、ベアトリスを病的に慕う男たちとセッションを始める羽目になるヘンリーは、ボロ屋にむさい&ウザい青年たちに工事音と何一つ良いことなしでさっさとニューヨークに戻ってくる。この二人は後者がニューヨークに戻るまで、ニューヨークとパリの物理的距離がほとんど無くなり、軽妙な編集によって行為が連鎖し広がっていく。

それにしても、犬の演技と小道具の使い方、マンションの廊下の使い方が上手すぎる。"22キロ痩せました"と語る体重計、ヌッと出てくるハンカチ、成人男性を吹っ飛ばす勢いの漏水、自立して爆走する掃除機、引くほど生い茂る観葉植物など、目を引く活動をする小道具が多く散りばめられている。エレベーターの横並び、精神科医と患者の椅子配置、隣同士のベランダなど、二人の視線の切り方も上手い。そして、犬のエドガーの名演なしに本作品は語れない。全登場人物の中で一番ビノシュのことが好きなんだろうと伝わるはしゃぎっぷりに、ヘンリーの婚約者に引き摺られていくときの嫌そうな顔も最高。

一番印象的なのは、双方聴く側の人間が集ったセラピーで"Uh-huh"と"Yes"しか出てこないとこだろうか。自分のことを語ら/れない不自由さみたいなのが表面化していた滑稽かつ重要なシーンだ。

※以前トルコに行った際、怪しげな音楽屋のDVDコーナーで埃被った本作品のDVDを発見した。流石に怪しすぎるのでそっと棚に戻してきた。店主はアミール・ナデリに似てた。
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