むさじー

この空の花 長岡花火物語のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

この空の花 長岡花火物語(2012年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<平和と復興を願う斬新で美しい大林ワールド>

大胆に時間軸をシャッフルし、コラージュ化した映像で、混沌とした深みに誘い込む摩訶不思議な映画である。
加えて、長岡出身・山本五十六のエピソード、空襲が原子模擬弾の投下実験だったという戦争秘話など、郷土史の情報がふんだんに盛り込まれる。
花火も爆弾も火薬によって作られ、原子力は生活エネルギーとして平和利用される以外に、核兵器となる危険性や原発事故の原因にもなる。
そんな二面性を過剰なテロップで事細かに解説し、感情を排した饒舌なセリフ回しで語りかけ、戦争と大地震被災者への追悼と祈り、そして復興へのメッセージを力強く訴えてくる。
その表現方法は、演劇、紙芝居、ドキュメンタリー、それにモデルとなった人物の登場など多岐に渡り、CG、アニメを駆使したその世界は壮観で圧倒される。
一方で無茶苦茶ともとれる表現世界であり、秩序を求める観客には共感不能と思えるが、この時空を超えたカオスは、時代の息苦しさ(昔も今も)から解放する仕掛けのようにも思え、しばしその混乱に身を投じていると、不思議と違和感は薄れ、腑に落ちてくる。
「人と人の隙間を埋めるのは想像力」というセリフがあるが、想像力(「思いやり」も想像力)があれば誰も争いを望まない、想像力こそが人の知性であるといい、この映画も想像力を武器に作られ、観客に想像力を強いる作品であるといえる。
エンディングの花火とともに「爆弾を花火に変えて打ち上げたら戦争がなくなる」という言葉、然りと思う。
また本作は、後の二作品にない、若く美しい輝きに満ちている。
それは若いヒロイン(猪俣南)の、生命の輝きを感じさせる瑞々しい魅力であるとともに、大林監督がまだ持っていた若々しい感性のゆえ、と思える。
むさじー

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